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Page68:暴力デ解決シヨウトスナ
「あ、おはよう、ナオくん。」
「おっ、おはよう…。」
あれからシュンくんとの会話はめっきり減った。部屋も別々だし、シュンくんは学校がある。そうなれば、家にいても夜ご飯の時くらいしか顔を合わせることがない。
たまに朝が一緒になっても挨拶だけで、元々一人っ子だった俺は、"普通の兄弟"とはこんなにもつまらないものなんだと肩を落とした。
「じゃあ、行ってきます。」
「いってらっしゃい…。」
シュンくんと話す、この距離感に胸が痛む。
けど、これでよかったと思える瞬間があるから、それを思えば楽になる。
『今日いつもの場所に来い。金忘れんなよ。』
なんて書かれてるメールを見れば…。
「………。」
「お、サンキュー。」
公園に着いて、ベンチに座る一条に無言で茶封筒を渡した。数日に一度数万の金を要求され、心底嫌気がさす。
学生時代にバイトして貯めた貯金と、パソコンを使った簡単な在宅ワークでコツコツ貯めた貯金を切り崩し、なんとかやりくり出来ている。底を付くまで金を巻き上げられたって別にいい。…けど、一条に会うのだけが本当に嫌だった。
「…じゃ。」
「おい、ちょっと待て。」
いつものように足早で帰ろうとした俺を、一条が止める。
「…なに。」
「もうちょっと相手してけよ。俺さぁ今日暇なんだよ〜。」
「………。」
「言うこと聞けねぇの?」
「…わかったよ。」
もはや脅しに近いセリフを言われ、家に向いていた足を引き返した。
「でな、そいつがよ〜!」
「………。」
永遠にどうでもいい話を聞かされ続け、本当にうんざりする。
「…はぁ…。」
だから、無意識にため息を零した。
「…てめぇ、いい加減怒るぞ?」
「は…、…ぅ…ッ!?」
突然笑ってた顔が一瞬にして真顔になり、俺の腹を殴った。初日にも殴られたが、その時と当たり所が違い、鳩尾よりもヤバいところに入ったのか、まともに呼吸が出来ず地面に蹲る。
「さっきからその態度、なんだよ?」
「ぅ、ぁ…、…はッ…!」
ため息が引き金になったらしいが、俺はもうそれどころじゃなく、右側の腹部を抑える。
そんな俺を横目に、一条はどこかへ電話をかけていた。
「…あ、もしもし、俺ー。この前言ってた話だけど、今から連れてくわ。」
嫌な予感がしてならない、早く逃げなきゃって思うのに、体が動かない。
まともに呼吸が出来るようになった頃には、そいつはもうスマホをポケットにしまって指をコキッと鳴らしていた。
「俺のために、稼いでくれよな?」
聞き返す間も無く再び強烈なパンチが俺を襲って、激痛で声が出せないのを良いことに、そのまま担がれる。
「大人しくしとけよ。」
「っう、」
すぐ近くに止めてあった車の後部座席に乱暴に押し込まれ、小さく唸り声をあげる。
そいつが運転席に乗ると車内にロックがかかり、車が発車した。
「オラ、ついたから降りろ。」
それから、家から真逆の方向に二十分程走って車が止まり、言われるがまま車を降りて後をついていくと、いかにも怪しげな店のビルへと入ろうとする。
「逃げたら、どうなるかわかってんな?」
「……っ、」
思わず足を止めた俺を見て、一条は釘を刺すかのように忠告した。
俺は唾を飲み込みながら、みんなのためだと自分を奮い立たせて中へ入る。
「あら、亮ちゃん久しぶり〜!」
「おう、今日もボッタクってるか?」
「やだァ!そんな言い方しちゃ、だーめっ!」
ビルの一階はバーのようだった。でも、客は全員男で、隙を見てキスする人たちもいる。店員は見るからにオネェな感じで、行った事がない俺でもそこがゲイバーだとわかった。
「あら?今日はカワイイ子連れてるじゃない♡」
店員が俺の存在に気付き、乙女のような瞳を向けてくる。そのねっとりとした視線が気持ち悪すぎて鳥肌が立った。
「あぁ、こいつ、二階のクラブに回そうと思って連れてきた。」
「は…?」
クラブ…?回す…?
「ええ?そんな見るからにド素人なひよっこちゃん、大丈夫なの〜?」
「大丈夫、大丈夫。俺の息子だから、そう簡単に壊れねぇよ。」
「…ワルイパパね〜。」
店員と話す内容が恐怖でしかなく、膝が笑う。
「こっちだ。ついてこい。」
震える手を押さえ、必死で足を動かし階段を上がる。
そして、着いた先には『SMClub peach』と書かれた看板が扉の横に立て掛けてあった。
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