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Page75:シュン-1

勉強中、机の上に置いてあるスマホが鳴った。 「…ナオくん?」 着信は"ナオくん"と表示されている。 結構前にナオくんが部屋に戻る音がしたから、もう寝たんだとばかり思っていた。 「はい?」 『…シュンか?』 「は…?」 予想外の相手に耳を疑った。 「な、なんで、ナオくんの…」 『お前、今すぐ外に出てこい。絶対ナオには気付かれるなよ。』 「はっ?何言って…って、おい!」 僕の返事も聞かず一方的に切られ、ツーツーと機械音が響く。 意味不明な状況の中、電話越しのあいつの声に怒りが含まれていたことだけは理解できた。 とりあえず、言われた通り外に行こうと部屋を出て、ナオくんの部屋の前を通った時、静かに扉を開けて中を伺う。 「スー…、スー…。」 一定のリズムで寝息を立てるナオくんがそこにいた。…前に僕が取ってあげたチョコのクッションを抱えて。 「…?」 ジッとナオくんを見つめると、目元に跡がついているのに気付き、音を立てずに寝ているナオくんに近付く。 「…涙の、跡…。」 「…んぅ…、」 そっとそれを拭き取って、僕はナオくんの部屋を後にした。 「なに、こんな夜に…。てかなんでナオくんのスマホ持ってんの。」 玄関を開けると、家の門にもたれ掛かるソウの姿があった。 「…話がある、いいから来い。」 僕の質問に答える気がないらしい。 それに対してムッとしたが、ソウからフツフツと感じる殺気が少し気になった。 「…いい加減、話してほしいんだけど?」 しばらく歩いて、着いた場所は公園だった。自分の中の疑問が何一つ解決されず、モヤモヤした僕は催促する。 そこでようやく、ソウが口を開いた。 「お前、ナオの父親のこと知ってるか?」 「ナオくんのお父さん…?…いや、何も聞かされてないけど…。」 「ナオの親が離婚したのは、高校に上がる少し前。離婚の原因は、多分父親からのDVで間違いないと思う。」 「DV…?」 「ああ。中学の時、ナオの体に痣が出来てるのを見たことがある。…必死で隠してたけどな。」 今までそんな話一度も聞いたことがなく、ソウから聞かされたナオくんの過去…DVという言葉に思わず顔を歪める。 「んで、その父親が今日、ナオとここにいるのを見た。」 「っ!どういうことだよ、それ!」 「偶然会って、ナオの具合が悪いからここまで送ったと言っていたけど…、会ったのは偶然でもなく、今日が初めてじゃない。俺はナオから聞き出そうとしたけど、ただ泣くだけで教えてはくれなかったけどな。」 「じゃあ、なんで知って……、あ、ナオくんのスマホ…?」 「ああ。ナオには悪いが、中も少し見た。数週間前からやり取りがあって、数日に一度のペースで、ナオはここで父親に金を渡してる。…昨日も渡してた。」 「………。」 不意に、昨日家の中ですれ違ったナオくんの顔が頭をよぎる。あれは、自分のお父さんに会った後の顔だった…? 「けど、今日も会ってたってことは、もしかしたら金以外の目的で呼び出された可能性がある。…ナオの体調不良が関係してないとは言い切れないし、何よりそれが一番怪しい。」 「じゃあ一体どんな目的で…!」 「それがわからない。ナオもそれを必死で隠してるようにもみえた。」 「………。」 「…家族を、守りたいって言ってたんだ。」 「え…?」 「お前が知らないって事は、きっと麻衣子さんにも秘密にしてんだろ。…これは俺の憶測だけど、麻衣子さんたちに近付かない代わりに、ナオが金を渡してた…とか。"家族を守りたい"って、過去のトラウマ持ってれば、そりゃそうなるよな。」 「………。」 ソウの話が本当だとしたら。 「ナオが一人で抱えるわけだ。…帰ったら、一度ナオの体を見てやってほしい。今まで暴力振るってきた父親だ、金以外だったら、体的に何かしててもおかしくはねぇだろ。」 「…僕のせいだ…。」 「あ?」 一体、どんな顔をして君に会えばいい…?

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