76 / 146
Page76:シュン-2
「僕が、ナオくんをちゃんと見ていれば…、こんな事にはならなかった…。」
嘘や誤魔化しが一番苦手なナオくんが、それをやってのける環境を、空気を、僕が作った。
「…なぁ、お前ってナオとどうなってるわけ?」
自己嫌悪になる中ソウに聞かれ、目を伏せる。
「…兄弟。」
どうにもなってない。…どうにもならなかった。
「いや、それは知って…」
「僕とナオくんは、普通の兄弟になったんだよ。」
「…は?」
「その方が、ナオくんがアンタの所にいきやすいだろ。」
ソウ本人に言うのは、背中を押しているようで余計惨めに感じる。でも、どうにもならないから諦めた。
「はぁ?どういうことだよ。」
「あの日、アンタが花火大会に誘った日…、ナオくんが選んだのは、僕じゃなかった。それがナオくんの答えでしょ。」
ナオくんがソウを選ぶのは三回目。何したってナオくんは僕を選ばない。…離された手で、嫌という程思い知らされた。
「…それで"普通の兄弟"に、か。お前、本当に馬鹿なんじゃねぇの?」
「なに…?」
ソウの言葉に、空気がピリつく。
ナオくんから離れるために、僕がどんな気持ちで…。
「ナオと二人で花火大会に行った日、俺はナオに告白した。まぁ、案の定フラれたけどな。」
「…は?」
フラれた…?
「『俺は、ソウの気持ちには応えられない。こんな俺のことを想ってくれて本当に嬉しかった。…けど、俺には好きな人がいる。』」
「………。」
「『一人より二人でいる心地良さを教えてもらったその人に、今、無性に好きって言いたい!』」
「………。」
「って数秒前に告白した俺に言うんだから、困ったもんだよな。まぁ、ナオらしいっちゃらしいけどよ。…なぁ、好きな人って誰だと思う?」
ナオくんが僕の態度を気にしてた事、ずっとわかってた。でも、僕が逃げて、避けて、遠ざけた。
「それもひっくるめて、お前に頼みたい。…俺じゃダメだった、ナオを守れねぇ。あいつを、助けてやって。」
たくさん、傷付けちゃった。
「…あぁ、必ず助ける。」
「じゃあこれ、ナオのスマホ…返しといて。」
「…ソウ。」
「あ?」
「ありがとう。」
「…この件で、お前ら家族をかき乱すかもしれない。そのキッカケを作った俺は、ナオに嫌われるだろうよ。けど、今度ナオを離してみろ。俺が全力で奪っていくからな。」
「ソ、」
「あと、俺はお前のために言ったんじゃねぇから勘違いすんな。全部、ナオのためだ。」
「…うん。」
僕はソウと別れ、ナオくんのスマホを持って家に帰った。
「父さん、ちょっといい?」
「ん?あぁ、どうした?」
麻衣子さんがその場にいたため、僕は父さんを部屋に呼んで、ポケットからナオくんのスマホを取り出す。
「父さん、麻衣子さんの元旦那、知ってる?」
「…ああ。そいつがどうした。」
「ナオくんから、金をもらってる。」
「なんだと?」
僕はソウから聞いたことを全部話し、スマホのやり取りを見せる。でも一応、ソウが言ってた「もしかしたら体的に…」の話は伏せた。
父さんの顔は険しくなる一方で、話し終える頃には怒りが最高潮に達していたのがわかる。
「…わかった、この件は俺がなんとかする。きっとナオくんは麻衣子さんには知られたくなかったと思うが、元旦那が関わってくる以上、麻衣子さんに話さざるを得ないがな…。」
「守りたい気持ちは、麻衣子さんもきっと同じだ。勿論、僕たちも。ナオくんならそれをわかってくれる。…僕はナオくんの側にいるよ。」
「そうだな…、頼んだぞ。」
父さんはナオくんのスマホを持って一階に降りて行った。そして僕は、ナオくんの部屋へ向かう。
「…っぅ、ふ、ぇ…、」
扉を開けると、小さく泣いている声が聞こえた。でも起きているわけじゃなく、寝ながらだ。
ゆっくり近寄って、こちらに背を向けて寝ているナオくんの服を捲り、思わず目を見開く。
「ん、だよ…これ…っ!」
「んん…っ、や、もう、やめてぇ…っ、」
背中にくっきり残る傷と痣。ナオくんが寝返りを打って、さらに目を疑った。
「お腹、…胸にも…。」
痛々しい傷跡に、服を握る手に力が入る。
「くそ…っ!」
ナオくんは、ずっと一人で戦っていたのか…。
ともだちにシェアしよう!