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Page76:シュン-2

「僕が、ナオくんをちゃんと見ていれば…、こんな事にはならなかった…。」 嘘や誤魔化しが一番苦手なナオくんが、それをやってのける環境を、空気を、僕が作った。 「…なぁ、お前ってナオとどうなってるわけ?」 自己嫌悪になる中ソウに聞かれ、目を伏せる。 「…兄弟。」 どうにもなってない。…どうにもならなかった。 「いや、それは知って…」 「僕とナオくんは、普通の兄弟になったんだよ。」 「…は?」 「その方が、ナオくんがアンタの所にいきやすいだろ。」 ソウ本人に言うのは、背中を押しているようで余計惨めに感じる。でも、どうにもならないから諦めた。 「はぁ?どういうことだよ。」 「あの日、アンタが花火大会に誘った日…、ナオくんが選んだのは、僕じゃなかった。それがナオくんの答えでしょ。」 ナオくんがソウを選ぶのは三回目。何したってナオくんは僕を選ばない。…離された手で、嫌という程思い知らされた。 「…それで"普通の兄弟"に、か。お前、本当に馬鹿なんじゃねぇの?」 「なに…?」 ソウの言葉に、空気がピリつく。 ナオくんから離れるために、僕がどんな気持ちで…。 「ナオと二人で花火大会に行った日、俺はナオに告白した。まぁ、案の定フラれたけどな。」 「…は?」 フラれた…? 「『俺は、ソウの気持ちには応えられない。こんな俺のことを想ってくれて本当に嬉しかった。…けど、俺には好きな人がいる。』」 「………。」 「『一人より二人でいる心地良さを教えてもらったその人に、今、無性に好きって言いたい!』」 「………。」 「って数秒前に告白した俺に言うんだから、困ったもんだよな。まぁ、ナオらしいっちゃらしいけどよ。…なぁ、好きな人って誰だと思う?」 ナオくんが僕の態度を気にしてた事、ずっとわかってた。でも、僕が逃げて、避けて、遠ざけた。 「それもひっくるめて、お前に頼みたい。…俺じゃダメだった、ナオを守れねぇ。あいつを、助けてやって。」 たくさん、傷付けちゃった。 「…あぁ、必ず助ける。」 「じゃあこれ、ナオのスマホ…返しといて。」 「…ソウ。」 「あ?」 「ありがとう。」 「…この件で、お前ら家族をかき乱すかもしれない。そのキッカケを作った俺は、ナオに嫌われるだろうよ。けど、今度ナオを離してみろ。俺が全力で奪っていくからな。」 「ソ、」 「あと、俺はお前のために言ったんじゃねぇから勘違いすんな。全部、ナオのためだ。」 「…うん。」 僕はソウと別れ、ナオくんのスマホを持って家に帰った。 「父さん、ちょっといい?」 「ん?あぁ、どうした?」 麻衣子さんがその場にいたため、僕は父さんを部屋に呼んで、ポケットからナオくんのスマホを取り出す。 「父さん、麻衣子さんの元旦那、知ってる?」 「…ああ。そいつがどうした。」 「ナオくんから、金をもらってる。」 「なんだと?」 僕はソウから聞いたことを全部話し、スマホのやり取りを見せる。でも一応、ソウが言ってた「もしかしたら体的に…」の話は伏せた。 父さんの顔は険しくなる一方で、話し終える頃には怒りが最高潮に達していたのがわかる。 「…わかった、この件は俺がなんとかする。きっとナオくんは麻衣子さんには知られたくなかったと思うが、元旦那が関わってくる以上、麻衣子さんに話さざるを得ないがな…。」 「守りたい気持ちは、麻衣子さんもきっと同じだ。勿論、僕たちも。ナオくんならそれをわかってくれる。…僕はナオくんの側にいるよ。」 「そうだな…、頼んだぞ。」 父さんはナオくんのスマホを持って一階に降りて行った。そして僕は、ナオくんの部屋へ向かう。 「…っぅ、ふ、ぇ…、」 扉を開けると、小さく泣いている声が聞こえた。でも起きているわけじゃなく、寝ながらだ。 ゆっくり近寄って、こちらに背を向けて寝ているナオくんの服を捲り、思わず目を見開く。 「ん、だよ…これ…っ!」 「んん…っ、や、もう、やめてぇ…っ、」 背中にくっきり残る傷と痣。ナオくんが寝返りを打って、さらに目を疑った。 「お腹、…胸にも…。」 痛々しい傷跡に、服を握る手に力が入る。 「くそ…っ!」 ナオくんは、ずっと一人で戦っていたのか…。

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