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Page77:目覚めてシンデレラ
何もない空間を、ただ只管走っていた。
一条が鞭やら蝋燭やらを持って近付いてきて、それから必死に逃げていたんだ。
でも俺の足は途中で止まる。
『家族を、壊す』
逃げちゃだめなんだと、自分に言い聞かせる。
立ち向かおうとした時、声が聞こえた。
「ナオくん…。」
あ、シュンくんだ。
「ナオくん、ナオくんってば…。」
俺を呼んでる?…ねえ、おれね、今すごくシュンくんの所に行きたい。でも、それができないんだ、ごめんね。
「目を覚まして、ナオくん。」
「…んっ…?」
はっきり聞こえたシュンくんの声に引っ張られるように、俺は目を覚ました。
「ナオくん…。」
「ん…?シュンくん…?」
体を起こしてシュンくんを見ると、悲しそうな顔をしていて、なんだか顔色も悪い。こんなこと、今まで一度もなかったから、心配になる。
「シュンくん、大丈夫?どうしたの?怖い夢でも見た?」
「…ナオくんが怖い夢、見たんじゃないの…。」
「あ…っ?あれ……っ、」
そう言われて初めて、自分が泣いていることに気が付いた。ポロポロと溢れてシーツを濡らしていく涙を、急いで拭った。
「なんの夢見てたかな…、へへ、思い出せな…」
「無理して笑わなくていいよ。…ねぇ、その体の痣、どうしたの。」
「…へ?」
シュンくんが何を言っているのか、寝起きの俺の頭ではすぐに理解出来ずに固まる。
「この、ナオくんの腹と背中についてる痣。」
「…っ!」
バッと服を捲られ、ぼんやりとしてた俺の頭が一気に覚醒する。そして、直ぐにシュンくんの手を振り払った。
「こ、これは…っ、そのっ、」
「隠さなくていいよ。その痣は…ナオくんのお父さんに、つけられたんでしょ…?」
あたふたしながら言い訳を探す俺に、シュンくんは言った。
「…え…、なん……。」
俺は言葉を失い、ひたすら混乱する。
だって、俺しか知らない秘密を、シュンくんが知るはずない。
「ずっと、一人で戦わせてごめんね。」
ねぇ、そうでしょ…?
「さ、さっきから、何言って…」
「スマホ、見たんだ。」
「っ!!」
シュンくんの言葉にハッとして、俺は枕元を見た。もちろんそこにスマホはなくて、ふと思う。
俺、今日最後にスマホ触ったのいつだっけ…?
「ごめんね、まだ借りてるんだ。今、父さんが麻衣子さんに話してる。」
「な、にっ!?」
いつ触ったかなんて疑問もかき消すかのようなセリフに、一気に血の気が引いた。
「やめてくれッ!母さんにはっ、嫌だ、言わないで…、バレちゃだめなんだ、壊される…っ、傷つく、きっと…っ!」
また、泣かせてしまう…そう思って、俺は一階へ向かおうとする。
「ナオくんっ!」
「やだっ、離してっ!」
だが、そんな俺をシュンくんが背後から抱き締めて止める。ギュッと力強く回された腕は、微かに震えていて。
「ナオくんお願い、聞いて…。」
優しい声に、俺は何も言えなくなった。
「ナオくんが、麻衣子さんや僕たちを守らなきゃって思ってるの、わかってる。でもそれは、僕たちだって同じだよ…?家族だもん…。」
シュンくんの言葉に、ツ…と涙が頬を伝った。
『助けを求めることは、決して悪いことじゃない。頼った先に解決策があるかもしれねぇ。』
バラしたら壊すと言われた、けど…。
「しゅ、く…っ…、」
『だから、限界だったら我慢せず、お前の心の内を叫んだっていいんだよ。』
本当は、もう限界で。
「…っ、たす、けて…っ!」
俺一人では、戦えない…。
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