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Page78:守りたかったもの
「おれ、もう、耐えられな…ふ、っうぇぇんッ!」
一度叫んでしまえば、止まらない。
「おれを…、かぁさんを…っ、たすけてっ!」
振り向いて、シュンくんにぎゅうと抱き付く。
「うん、助ける。ナオくんは僕が守ってあげる。麻衣子さんは、父さんが絶対守ってくれるよ。」
そんな俺を、シュンくんは痛いくらい抱き締め返してくれた。
「ね、教えて…。その体の痣の理由を…。」
優しく語りかけるような声。
でも、その声は少し泣きそうな声にも聞こえた。
「おねがい、母さんには絶対言わないで…。」
「うん、約束する。」
俺たちはベッドに座り直し、今まであったことをシュンくんに話した。痣と傷の理由は勿論、それまでの経由。…包み隠さず、引かれる覚悟で…。
「明日、撮影…だったんだ…。それで、お金もらったら…あいつも気が済むと思って…。」
「………。」
「やっと、母さんが手に入れた幸せを、あいつなんかに壊されたくなかった…。シュンくんや、京介さんにだって、迷惑かけたくなくて…。…けど、本当は、すごくこわかった…っ!」
止めどなく流れ続ける俺の涙に、シュンくんが触れる。
「わかったよ、ナオくん。話してくれて、ありがとう。よく一人で頑張ったね…、気付いてあげられなくて、本当にごめんね。」
そして、俺をまた抱き締めたんだ。
「…母さんのところ、いかなきゃ…。」
しばらく抱き締められたまま泣いてた俺は、母さんに会わなきゃいけない気がしてシュンくんから離れる。
だって、きっと母さんは今頃自分を責めてる。
「うん、一緒に下行こう。」
「ん…。」
俺が「違う」と言ってあげなきゃいけない気がした。
「…母さん。」
「っ!ナオッ!!」
リビングにいた母さんは、思った通り泣いていた。
「ナオっ、ごめ、ごめんなさい…っ、私…っ!」
そんな顔、させたくなかったのに…。
「母さん、違うよ。母さんは悪くないんだ。」
そう言って俺は母さんを抱き締める。
「俺が、守らなきゃって思ったんだ…、昔はずっと、守られてばっかりだったからさ…。」
俺の胸に顔を埋め震える母さんは、きっと悔しい思いや怒り、やり場のない気持ちでいっぱいなんだと思う。
そんな気持ちにさせてしまったのは、きっと俺が選択を間違えたからだ。
「一番辛い時、俺は母さんに何もしてあげられなかった。あいつに会った時、今の俺なら守れるって思ったんだ…。」
もう、辛い思いなんてしてほしくない。笑っててほしいんだよ。
「でも、やっぱり俺じゃ母さんを守れなかった。俺一人じゃ、無理だったんだ。」
母さんは、笑顔が一番似合うから。
「…やっぱり馬鹿な息子だよ、俺…。ごめんな、母さん…。」
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