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Page79:さびしさと、欲

「ナオ、私はね、何されても平気なの…。だけど…っ、あなたに何かあったら、正気じゃいられない…っ!」 「………。」 「殴られる私の前に立ちはだかって、代わりに殴られた時…、泣く私の頭を撫でて、大丈夫だよって笑ってくれた時…っ、私はナオに守られて、助けられて、生きてきたのよ…。」 「…っ、」 「ずっとずっと…っ、ナオがいたから、今の私がいてっ、京介さんや、俊くんとも家族になれたの…っ!」 「ぅ…っ、く…ッ、」 「馬鹿な息子なわけない、大切で可愛い立派な息子…。守りたいものは、みんな同じ…もう、あなた一人で背負わなくてもいいのよ…。」 抱き締めてたはずなのに、いつの間にか抱き締められてて…。 「ナオくん、よく頑張ったね。」 「ここからは、バトンタッチだ。」 この瞬間、俺は本当の"家族"を知った気がしたんだ。 「とりあえず、今日はもう遅いからナオくんもシュンも寝なさい。明日、約束の時間には俺が行くよ。」 もちろん警察も連れてね、と京介さんは言った。法的な処置を取れば今後危害が及ぶこともないだろう、とも。 「母さんは、行かないで…。」 「え?」 「あいつに、会わせたくない…。お願い…。」 「ナオ…。」 一条という存在そのものが、母さんを傷付ける。思い出したくない事も、顔を見たら思い出してしまうかもしれない。 「大丈夫だよ、麻衣子さんは連れて行かない。俺も会わせる気はないからね。」 俺の思いを汲み取った京介さんは、ポンと頭を撫でて微笑む。そんな京介さんに、俺はすごく安心した。 大きくて温かくて、頼りがいがあって。 「よろしく、お願いします…。」 これが"お父さん"なんだなって思った。 「寝ようか、ナオくん。」 「うん…。」 シュンくんに手を握られ、京介さんと母さんに「おやすみ」と言い、俺たちは二階に上がる。 手前が俺の部屋で、奥がシュンくんの部屋。…きっと部屋の前で手を離されてしまう。 「…ナオくん?」 「………。」 それが嫌で、俺は手に力を込める。 「大丈夫だよ、今日は一緒に寝るつもり。」 「っ!うん…!」 俺の不安を察したシュンくんは優しく微笑みかけ、そのまま手を引いて俺の部屋に入った。 「ほら、ナオくんもベッドに入って。」 「ん…。」 シュンくんが空けてくれたスペースに、何の躊躇いもなく入る。 いつ振りかの人の温もりに、安心と嬉しさが込み上げて、俺はシュンくんの胸に顔を埋めた。 「ナオくん…?」 「…おれを、ひとりにしないで…。」 聞こえるか聞こえないかくらいの、小さな声。その声は微かに震え、闇の中へと消えていく。 本当は迷惑かもしれない。だって、シュンくんは兄弟になる事を望んでいるから。 でも、それでも…。 「ひとりは、さびしい…。」 「………。」 「兄弟のままでいい…から…、少しの間だけでも、いいから…、おれと、いっしょにいて…。」 "そばにいてほしい。" 初めて誰かに対して、そう思った。 だから余計に…。 「ナオくん…。」 「…っぅ、」 「泣かないで、ナオくん…。」 「ぅー…っ、」 涙が溢れる。 だってこれ以上、俺はシュンくんを求めることができない。

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