79 / 146
Page79:さびしさと、欲
「ナオ、私はね、何されても平気なの…。だけど…っ、あなたに何かあったら、正気じゃいられない…っ!」
「………。」
「殴られる私の前に立ちはだかって、代わりに殴られた時…、泣く私の頭を撫でて、大丈夫だよって笑ってくれた時…っ、私はナオに守られて、助けられて、生きてきたのよ…。」
「…っ、」
「ずっとずっと…っ、ナオがいたから、今の私がいてっ、京介さんや、俊くんとも家族になれたの…っ!」
「ぅ…っ、く…ッ、」
「馬鹿な息子なわけない、大切で可愛い立派な息子…。守りたいものは、みんな同じ…もう、あなた一人で背負わなくてもいいのよ…。」
抱き締めてたはずなのに、いつの間にか抱き締められてて…。
「ナオくん、よく頑張ったね。」
「ここからは、バトンタッチだ。」
この瞬間、俺は本当の"家族"を知った気がしたんだ。
「とりあえず、今日はもう遅いからナオくんもシュンも寝なさい。明日、約束の時間には俺が行くよ。」
もちろん警察も連れてね、と京介さんは言った。法的な処置を取れば今後危害が及ぶこともないだろう、とも。
「母さんは、行かないで…。」
「え?」
「あいつに、会わせたくない…。お願い…。」
「ナオ…。」
一条という存在そのものが、母さんを傷付ける。思い出したくない事も、顔を見たら思い出してしまうかもしれない。
「大丈夫だよ、麻衣子さんは連れて行かない。俺も会わせる気はないからね。」
俺の思いを汲み取った京介さんは、ポンと頭を撫でて微笑む。そんな京介さんに、俺はすごく安心した。
大きくて温かくて、頼りがいがあって。
「よろしく、お願いします…。」
これが"お父さん"なんだなって思った。
「寝ようか、ナオくん。」
「うん…。」
シュンくんに手を握られ、京介さんと母さんに「おやすみ」と言い、俺たちは二階に上がる。
手前が俺の部屋で、奥がシュンくんの部屋。…きっと部屋の前で手を離されてしまう。
「…ナオくん?」
「………。」
それが嫌で、俺は手に力を込める。
「大丈夫だよ、今日は一緒に寝るつもり。」
「っ!うん…!」
俺の不安を察したシュンくんは優しく微笑みかけ、そのまま手を引いて俺の部屋に入った。
「ほら、ナオくんもベッドに入って。」
「ん…。」
シュンくんが空けてくれたスペースに、何の躊躇いもなく入る。
いつ振りかの人の温もりに、安心と嬉しさが込み上げて、俺はシュンくんの胸に顔を埋めた。
「ナオくん…?」
「…おれを、ひとりにしないで…。」
聞こえるか聞こえないかくらいの、小さな声。その声は微かに震え、闇の中へと消えていく。
本当は迷惑かもしれない。だって、シュンくんは兄弟になる事を望んでいるから。
でも、それでも…。
「ひとりは、さびしい…。」
「………。」
「兄弟のままでいい…から…、少しの間だけでも、いいから…、おれと、いっしょにいて…。」
"そばにいてほしい。"
初めて誰かに対して、そう思った。
だから余計に…。
「ナオくん…。」
「…っぅ、」
「泣かないで、ナオくん…。」
「ぅー…っ、」
涙が溢れる。
だってこれ以上、俺はシュンくんを求めることができない。
ともだちにシェアしよう!