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Page81:笑ってみせて
「ん…。」
スッと俺の涙を拭き取った後、シュンくんの手が頬を包んで上を向かす。
「………。」
「…ん…?」
向かせたまま、なぜか無言になるシュンくん。やがて暗闇に慣れた目が、薄っすらシュンくんを表情を捉えた。
「え…、シュンくん…?」
「…っ、」
「な、なんで、泣いて…?」
暗闇の中で光る、シュンくんの涙。初めて見るシュンくんの涙に戸惑いが隠せない。
「…っごめん…、僕、ほんとダメで…。ナオくんの様子がおかしいって、薄々気付いてたんだ…。でも、これ以上距離を詰めちゃダメだって、思ったら…何もできなくて…っ、」
シュンくんの心の葛藤が、俺の心を締め付けた。
「ソウが教えてくれたんだ、ナオくんのこと…。」
「え…?」
「ナオくんのスマホで僕に電話してきた…、ナオくんのお父さんの事も少し聞いた…っ、もっと早く、ナオくんに聞いていれば、辛い思いをさせずに済んだのかもしれないって……思った…っ、」
…シュンくんは、どんな気持ちで俺の話を聞いていたのだろう。泣きそうに聞こえた声も、本当は泣きたかったのかもしれない。
「ごめんね、ナオくん…っ、」
ぎゅっと閉じられた目からポロポロ落ちる雫。
「シュンくん、シュンくん。」
「…んっ?」
「ありがとう。」
その雫にそっと触れて、シュンくんの唇に自分の唇を押し当てた。
ちゅっ、と触れるだけの軽いキス。
「ナ、オくん…っ?」
俺の行動に驚いて、シュンくんの涙がピタリと止まった気がした。
「シュンくんは、いつだって俺を助けてくれたよ。俺の知らないところでも、ずっとそうだったんでしょ?」
「………。」
「俺さ、シュンくんと一緒にいて今まで知らなかった気持ち、気付かなかった気持ち、たくさん教えてもらったんだ。だから、俺の大切な人だからこそ、守りたいと思った。」
「ナオくん…。」
「"明日が終われば"、何か変わるって思ってたけど、シュンくんたちのお陰で"明日で終わる"って思った…。」
きっと、もう明日で終わる。
だってみんなが助けてくれるから。
「俺、もう我慢しなくていいって、思っ…、」
それが、どれだけ救われたことかシュンくんに届いて欲しい。
「…っ、だから、俺は…っ、」
「…うん、ナオくん、わかったよ。」
「っぅ、ふぇ…っ、」
「ナオくんを救えたならそれでいい。僕はもう、ナオくんを離したりしない。」
「うん…っ!」
「一人にもしないし、そばにいるよ。」
「うんっ!」
「…ふふっ、ナオくんと一緒なら、きっと毎日が楽しいね。」
届いた先の、シュンくんの笑顔が見たかったんだ。
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