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Page82:ぎゅっ!ぎゅっ!
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「…ん…。」
カーテンの隙間から入ってきた日差しで、目を覚ます。
「…あれ…。」
体を起こして隣を見ると、昨日一緒に寝たはずのシュンくんがいない。
「ハッ…!まさか夢オチ…?」
俺の願望が夢になって現れたとか…!?なんてグルグル考えていると、部屋の扉が開いた。
「ナオくん?起きてる?」
「っ!シュンきゅん!」
シュンくんを見て、ショーンとなってた俺の顔は、嬉しさでパァァと明るくなる。
「ん?どうしたの?怖い夢でも見た?」
「んーん!見てないよ!」
シッポがついてたら、ご主人様を見つけた犬のように凄い勢いで振っているに違いない。それくらい嬉しかった。
「…そう、ならよかった。」
「?う、うん…。」
でも、心なしかシュンくんの態度が素っ気ない気がして少し落胆する。
あんまり笑ってくれないし、目も逸らされる。その姿に、まさか本当に夢オチなのではないかと心臓が痛くなった。
「シュ、シュンくん…?」
た、確かめてみよう…かな…?
「ん?なに?」
「ん…!」
「えっ?」
ベッドに座ったまま、パッと両手を広げてみる。
「ぎゅって、してほしい…。」
伏せ目がちになりながら、安心させてほしい思いと一緒にシュンくんからのハグを待つ。
「………。」
「………。」
だが、広げた手の中に温もりは来なくて沈黙が続き、全てが夢だったような空気に一気に恥ずかしくなった。
「…っへへ、なーんちゃっ、」
「ナオくん。」
「わ…!」
広げた手を下ろそうとした瞬間、ふわっとシュンが俺を抱き締める。求めていた温もりが俺を包み込み、思わずほぅ…と息を吐く。
「…やっぱ、怖い夢でも見たの…?」
「見てないよ。…シュンくん、俺のこと好き?」
「好きだよ。」
「ふふっ、よかった、夢かと思った。」
そう言って、俺もきゅっと抱き締め返す。
同じ石鹸、同じシャンプー、同じ洗剤、同じ柔軟剤…、使ってるものは全部同じなのに、シュンくんはシュンくんの匂いがする。
それがすごく俺を安心させた。
「…不安になった?」
「んー…、少しだけ。」
「そっか、ごめんね。」
よしよしと頭を撫でてくれる、その手が気持ち良くて、ふふっと口角が上がる。
「…ナオくん、話があるんだ。」
「ん…?」
やけに落ち着いたシュンくんの声を聞いて、先程の態度の原因はこれかなと直感で思った。
俺から離れ、ベッドに腰掛けるシュンくん。
「あのね…。」
「うん。」
「父さんに、その…、体の痣と理由…言っちゃったんだ。」
申し訳なさそうな表情をしてシュンくんは俯き、手をぎゅっと握っていた。
「え、別にいいよ?」
「え…?」
カラッとした俺の返事に、シュンくんがパッと顔をあげる。
どんな内容かと少し身構えたけど、悪い話じゃなくてよかったと安心した。
「あいつに会いに行くって言われた時から京介さんには知られる覚悟してたんだけど、自分から話す勇気がなくて…。」
「…うん。」
「でも、シュンくんには自分の口からちゃんと言えた!」
へらっと笑ってシュンくんを見ると、俺の反応が意外だったからか少し驚いた顔をし、すぐにホッとした表情に変わる。
「ただ、母さんには知られたくないな…。流石に、立ち直れなくなっちゃう…。」
「大丈夫だよ。麻衣子さんには言わないように、父さんにも言っといたから安心してね。」
「ありがとう!…ていうか、俺もごめんね。シュンくんから京介さんに言わせちゃって…。」
痣の理由は少なからず"性的な表現"が含まれてるわけで…。シュンくんだって血の繋がった父親にに言うのは抵抗あったはず。
「あぁ、それは気にしなくていいよ。僕も父さんもわかってるから。」
しょんぼりする俺を見てクスリと笑ったシュンくんは、また頭を撫でる。
「…シュンくん。」
「ん?」
「こっち、来て…。」
「わっ!」
その手を引っ張って、シュンくんを布団の中に引きずり込んだ。
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