87 / 146

Page87:今日のチッスはブドウ味

「…ん?」 ガチャ…と音を立てながら、ほんの数センチ開けてみると、丁度開けた先に小さな袋が落ちていた。 なんだこれ…?と、その袋を拾った時。 「やっと、開けてくれたね。」 「っ!?」 シュンくんの声が聞こえてすぐ、バンッ!と音を立て、数センチしか開いてなかった扉が全開した。 「ほら、ナオくん。もう出ておいで。」 「な…っ、お、俺のこと、嵌めたな…!?」 「わかってたでしょ?」 「…っ、」 図星をつかれ、言い返すことができない。 「でも、気になっちゃったんだよね〜?何の音なんだろう〜って。」 「…飴。」 「そう、飴!ナオくんにあげる。」 手のひらにある袋の正体は、ただの飴。 これを手でガサガサ鳴らして、ここに置いておいたんだ。 「…いや、飴って!」 「好きでしょ?シュワシュワするやつ。」 「好きだけど!飴って!!」 俺めっちゃ馬鹿じゃん!?たかが飴一つに釣られて! でもしょうがないじゃん!?気になったんだもん! 「ほらほら、そんな落ち込まないで。」 「あっ?…あっ!俺の飴!」 しゃがみ込む俺の手からひょいっと飴を取り、何の躊躇いもなく開けたかと思えば、ぱくっとシュンくんの口に放り込まれる。 「なっ、なんで食うの!?俺にくれたじゃん!俺のなのに…っえ、なに…っンンッ!?」 シュンくんはギャーギャー騒ぐ俺の顔を掴むと、少し口角を上げてキスしてきた。 「ん、ぅっ!?ふ、ぁ、ンン…っ!」 途端、口の中にシュワーと広がるブドウの味と、コロンと移される小さな球体。 「ん…っは、」 移し終えると、シュンくんはスッと俺から離れていった。 「どう?美味しい?」 「な…っ、な……。」 「ふふっ、顔真っ赤で可愛い。…よし!早くリビング行こ!」 「〜〜ッ無理!!」 口移しで飴を俺に食べさせたシュンくんは、満足気な顔をしてリビングへ行き、残された俺は飴がなくなるまでそこから動けなかった。 「ナオくん、ナオくん、ちょっと来て。」 シュンくんに遊ばれてから数時間が経った頃、シュンくんがリビングの入り口から俺を手招きする。 今度は何をする気だ?と警戒すると、「お客さん来てる」と教えてくれた。 「お客さんって、誰………。」 シュンくんについて行き、玄関を開けて思わず目を見開いた。 「…ッソウ…!!」 家の門にもたれ掛かる、あの後ろ姿は紛れもなくソウで…。 「はっ!?ナオ…!?」 俺は靴も履かないでソウの元に駆け寄り、ガバッと抱き付いた。 「ソウ!なんでここにいんの!?ソウー!!」 来るなら連絡しろよ!と言いながらぐりぐり頭を押し付けてやる。 「なんでって、シュンが…っ!いてっ!ちょ、落ち着け…!」 「………。」 俺はソウの言葉でピタッと止まり、スッと離れた。 「っ?…ナオ…?」 心配そうなソウの顔。…だが、思い出したのだ後ろにシュンくんがいることを…。 「えっと、これは、その…。」 もにょもにょ喋りながら、恐る恐る振り向く。 でもそこには、悪魔のような笑顔も黒いオーラも出ていない、優しい顔したシュンくんがいた。 「いいよ、抱き付いても。僕が呼んだんだ、ソウの事。」 「え…?シュンくんが…?」 「ナオくんが会いたがってると思ってさ。それをソウにもわかってほしくて。」 ん?ソウにも、わかってほしい…? 「え、なんで…?」 「ナオくんの事僕に教えたから、嫌われたって思い込んでるみたいだよ。」 困ったように笑うシュンくんの言葉を聞いてバッと振り返ると、ソウはバツが悪そうな表情をし、俺から目を逸らしていた。

ともだちにシェアしよう!