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Page88:君からもらい泣き

「ッこの、バカモーン!」 「ぃって!」 ソウの両頬を、俺は少し強めに叩く。 なんて顔してんだって思った。そんな顔にさせたのは、俺のせいではあるけれど。 「嫌いになんて、なるわけないだろ!?」 「………。」 「ソウに会いたかった。会って言いたかった、俺を助けてくれてありがとうって!」 「…っ、」 「シュンくんたちに頼れるきっかけを、ソウが作って、ソウが背中を押してくれたんだ。本当に感謝してる、ありがとう!」 それがなければ今頃俺は…。考えただけでも背筋が震える。ソウには感謝してもしたりないくらいだ。 「っ別に、そんな…大したことしてねぇし…。」 なんて言うソウの瞳が潤んでいて。 「…あれ?ソウ…、少し泣いてる?」 覗き込むようにして見ると、ソウはぐいっと目を擦って俺を睨んだ。 「っ泣いてねぇ!」 本人は全力で否定してるけど、ソウと同じで俺も少し泣きそうだったよ。 「ていうか、次そんなこと思ったら許さないからなっ!だいたい、過去にした事のがよっぽど嫌いになる原因だぞ!」 うりゃっとソウの背中に飛び乗ると「うおっ、重…!」と顔をしかめながらも俺を支えた。 そのしかめっ面の頬に指を刺してグリグリする。 なんだかんだソウにも色々されたけど、やっぱり嫌いになんてなれないよ。 「確かに、そういえばそうだったな。」 「忘れてんじゃねーよ!」 「…お前が俺のものになるなら、"あの時、泣き叫ぼうが無理やりにでもヤッちまえばよかった"って思うわ。」 「はぁ…!?人の話聞いてたか!?」 突然物騒な事を言い出し、ギョッとする。 「ま、後悔はしてねぇから地団駄は踏まないけど。」 そんな俺を余所に、ソウの視線は何故かシュンくんに向けられていて、ますます意味がわからない。 「フッ、結構根に持つタイプ?やだねぇ。…僕もあの時は売り言葉に買い言葉だったよ、自分の余裕のなさに笑える。」 ソウの言葉の意図を理解してるかのようなシュンくんの口振りに、俺だけ話についていけてない。 「ねぇ、何の話!?俺、全ッ然わかんねぇんだけど!?」 「…ナオくんは知らなくて良い事だよ。」 「ええ!?」 結局、何のことか教えてもらえず、二人の会話は俺の中で迷宮入りになった。 「ねぇ、ナオくん。」 「ん?」 ソウが帰って家の中に入ると、後ろから俺の服をクイッと引っ張るシュンくんに小首を傾げる。 「今日の夜ご飯、一緒に作ろう!」 「…え?」 「だから、夜ご飯一緒に作ろう!」 「…唐突ですね…?」 「誘いって言うのは唐突なものだよ!」 なんて、嬉しそうに言うもんだから。 「あ、はい…。」 俺は言われるがまま、返事をしてしまった。 「それで、何作るの?」 リビングには母さんがいるため、俺たちは部屋に行って内容を聞く。 「んーと、サラダ、スープ、唐揚げ、ハンバーグ、ケーキかな!」 「ケーキ?誰か誕生日なの?」 それに料理もいつもより多い気がする。 「誕生日ではないけど、記念日!父さんと、麻衣子さんが付き合って五年目の!」 「へぇ、よく知ってるね?」 シュンくんが親の記念日知ってるなんて意外だ。てか、母さんが再婚した時にすら事後報告だった俺って…。 「うん、前の家のカレンダーに印ついてるの見たことあってさ。今まで気にしてなかったけど、家族になって初めての記念日だし、何かしてあげたいなーって。」 シュンくんは、少し照れ臭そうに笑う。 その顔に、俺もなんだか嬉しくなってきた。 「…そっか!じゃあ頑張って作ろう!」 「ありがとう!じゃあ早速…はい、エプロン!」 「用意してくれたんだ!ありが……えっ?」 シュンくんがガッツポーズする俺に満面の笑みで渡してきたのは、明らかに女の子が着るようなフリルの付いたピンクのエプロンだった。

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