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Page90:Farther&Mother

いつまでも名前で呼ぶんじゃなく、「父さん」「母さん」と呼ぼうと、料理を作っている時にシュンくんと決めた。 「ナオ…、シュンくん…、ありが、と…っ、」 だって、家族だから。 「…本当に、俺たちは幸せ者だ。」 そう言って父さんは、泣く母さんを抱き寄せる。 そんな光景を見て、俺は嬉しくなった。 「成功してよかったね、ナオくん。」 「…うん…。」 …けど、その裏で心が少し痛んだのも事実だった。 「今日も俺と一緒に寝てくれる?」 お風呂上がりのシュンくんに尋ねると、シュンくんは「いいよ」と笑った後、俺の頭を撫でる。 「電気消すよ。」 「ん。」 ピッとリモコンを操作して、シュンくんが部屋の明かりを消してくれた。 一緒に寝るのなんて初めてじゃないのに、なんだかドキドキする。 でも、そのどこかで、俺はまた…。 「ねえ、ナオくん。」 「ん…?」 暗闇を見つめてたら、隣にいるシュンくんが俺を呼んだ。別に見えるわけじゃないけど、顔をシュンくんに向ける。 「何考えてるの?」 「え…?」 「ご飯食べた後、…今も、何考えてる?」 その唐突な質問は、どこか核心をついていて。 「そ、それは…。」 俺は言葉に詰まる。 折角この距離になったのに、言う事によってまた遠くなったりしないだろうか。 「教えて?」 「でも…。」 「大丈夫、僕は離れたりしないよ。」 まるで俺のを不安を察したかのように、シュンくんの手がスルッと頬を撫でる。 それがあまりに優しいものだから、俺はその手に撫でられるがまま頬をすり寄せた。 「シュンくん…。」 「ん?」 「俺ね、怖い…。」 頬を撫でてたシュンくんの手を、微かに震える手でぎゅっと握る。 「…父さんも母さんも、幸せって、ありがとうって、言ってくれたのに…。俺たちは義理でも兄弟で家族なのに…、恋愛感情を抱いてる。」 それがいけないことってわかってる。 「もし、それがバレてしまったら…、きっと元には戻らない。」 俺は、それが堪らなく怖い。 「でも、それでも、気持ちに嘘をつくことができないんだ…。」 好きで、大好きで、こんなにも想ってて、それが通じ合ったのに…、今更離れるなんてできっこない。 「…僕もだよ。」 「え…?」 「僕も、同じ気持ち。」 暗闇にいるシュンくんが、困ったように笑ったのがなんとなくわかった。 「父さん、母さん、なんて呼んでおきながら、ナオくんと色々ヤッちゃってるし。なんかすごく裏切ってるような気分。」 「…うん。」 「ナオくんの言う通り、バレたら元には戻らないと思う。父さんと母さんの幸せを、僕たちで壊してしまうかもしれない。」 「うん…。」 「でも、それでも僕もナオくんと離れることなんてできないよ。」 握っていた手をスッと離され、次の瞬間には、俺はシュンくんに包まれるかのように抱き締められていた。

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