91 / 146
Page91:チョロ坊や
「だからさ、ナオくん。そんなに重く考えないで、もっと気楽にいこう。」
ね?と優しい声で問いかけるシュンくんに、心が少しだけ軽くなった気がした。
もちろん、俺たちが選んだ道は、そんな簡単に行けるものではないのは重々承知だ。
けど、押し潰されて迷走してしまうくらいなら、いっそ少しでも楽な方へ。
「気持ちなんて他人に言われて変わるものでもないしさ。バレた時、一緒に対処していこう?大丈夫、僕がちゃんと守るから。」
「うんっ、」
抱き締めるシュンくんの腕に力が入り、俺もそれに応えるかのように抱き締め返す。
「出て行けって、顔も見たくないって言われるかもしれない、気持ち悪いって蔑まされるかもしれない…、でも、どんなに辛くても、ナオくんと一緒にいることを選んで、この先も生きていく。」
「シュンく…、」
「好きだよ、ナオくん。」
ちゅ…と小さなリップ音と共に、額に柔なくて温かいものが一瞬触れた。
それがキスだと理解した時、暗闇で良かったと思った。
「俺も、好き…。」
だってきっと今、俺の顔は真っ赤になってにやけてる。さっきはあんなに不安でいっぱいだったのに。
シュンくんから伝わる"好き"。
俺から溢れる"好き"。
その二つの"好き"は、きっとお互いが思ってるよりも遥かに大きくて重たいもの。
「シュンくん…。」
「ん?」
「…俺を、俊くんのものにして…。」
その全てを受け止めて、支え合いたい。
「…あっ、ん…っ、」
暗闇に、甘い吐息が混じり合う。シュンくんに着ていたTシャツを脱がされ、首、鎖骨、胸にちゅっちゅっとキスを落とされる。
「ん、しゅんく、も…脱いで…、」
自分だけ脱がされるのはずるいと訴えると、シュンくんは少し笑ってTシャツを脱いでくれた。
「これでいい?」
「う、ん…。」
「でもさ、これじゃあ見えなくない?」
ちょっと電気つけるね、とリモコンに手を伸ばし、俺は急いでその手を掴む。
「やだっ!つけちゃやだ!」
「なんで?暗いとやりにくいよ。」
「でも、やだ…っ!明るいのは、はっ、はずかしい…から…。」
掴む手に力を込めると、俺の気持ちが伝わったかのように、シュンくんはよしよしと頭を撫でた。
「…わかったよ。」
「!ありが…」
「豆電で我慢する。」
その言葉と共にピッとボタンが押され、暗闇だった部屋に小さな明かりが灯り、シュンくんと目が合う。
「いや、わかってへんがな!」
「大丈夫、薄暗いからそんなにわかんない。」
「そういう問題ちゃうがな!」
「…ナオくん、今朝も一緒にしたじゃん。」
「うっ、いや、そうだけど…っ!」
なんか恥ずかしいじゃんっ!だって今からヤッちゃうんだよ!?今朝のそれとは訳が違う…!こんなの、少しの明かりだって…。
「奈央の全部、僕にみせて。」
「…っ、ま、豆電なら、いいよ…、もうっ!」
耳元で、しかも呼び捨てはずるいっ!
「あはは、ありがとう。」
自分ってチョロいな、なんて思いながら目を瞑ってシュンくんのキスを受け入れた。
ともだちにシェアしよう!