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まさか、俊の口から"元旦那"と言う単語が出てくるとは思わなかった。
『ナオくんから、金をもらってる。』
そう言われスマホを見せられた時、怒りと共に悔しさも込み上げた。
「明日、約束の時間には俺が行くよ。」
俺は一体、何をやっていたんだ…と。
「父さん、ちょっと時間ある?」
翌日、約束の一時間ほど前。
二階から降りてきた俊が、支度をしている俺の元へ来た。
「ああ、大丈夫だよ。どうかしたか?」
麻衣子さんはナオくんの事でなかなか寝付けず、今朝方やっと眠りについた。
「…昨日、ナオくんのことで言えてないことがあったんだ。」
俊の表情は少し曇っており、それは"良くないこと"だと悟る。
俺たちはダイニングテーブルに移動し、向き合うように座った。
「実は……。」
重い空気の中、俊の口から出た言葉は、さすがに俺も絶句した。
「…このことは、麻衣子さんには言わないでほしい。」
言わない。言えるはずがないだろう、そんな事絶対に…。
「大丈夫、言わないよ。話してくれてありがとう。」
俺がそう言うと、俊は二階へ戻って行った。
一人残された俺の脳内に、過去の麻衣子さんが過る。
『ありがとうございます、京介さん。でも、私は大丈夫ですから。』
辛そうに笑う彼女を守りたいと思った。
『…京介さんが奈央の父親なら、きっとあの子も幸せになれる、なんて…。そう思ってしまうのは、私が貴方のことを好きでいるからかしら。』
彼女の背負っているものを、俺も一緒に背負いたいと思った。
『ナオ、私はね、何されても平気なの…。だけど…っ、あなたに何かあったら、正気じゃいられない…っ!』
なのに俺は……。
ギュッと拳を強く握りしめ、待ち合わせ場所へと向かった。
****
「一条亮、だな?」
「あ?」
約束の時間、五分前。
待ち合わせ場所に行くとベンチで煙草を吸っている柄の悪い男がいた。実際会うのは初めてだったけど、そいつが一条だとすぐにわかった。
「俺は、早川京介。妻の名前は佐伯麻衣子。…俺が来た理由は、わかるな?」
「……喋りやがったな。」
チッと舌打ちをし、煙草を足で踏み火を消す。
一条はベンチから立つと俺の前に来た。
「で、奈央は?」
「…は?」
一条の言葉が理解できなかった。
俺がここにいる意味をわかってないのか?
「奈央だよ。…いねぇの?」
「いるわけないだろ。何のために俺が代わりに来たと思ってる。」
ヘラヘラ笑いながら、人を小馬鹿にするような視線を俺に向ける。
「…そっか〜、いねぇのか。今日、本番の撮影だったんだけどなぁ?」
「………。」
何を考えているかわからなかったが、その一言で全てを察した。
「チャチな媚薬であんなに喘いで。」
「………。」
「イヤイヤ言いながらおっ勃たせて最後失禁した時は傑作だったな〜、はははっ!ビデオ回しとけばよかった。」
「………。」
「蝋垂らした時の奈央の声、堪んなかったぜェ?」
「………。」
「ほんとによォ…、殴られて感じるあの淫乱なメスネコ…高く売れただろうなァ。」
ヒヒッと笑いながら、俺を挑発する。
今にも殴りかかりそうになったが、拳をグッと握り耐えた。
「…言いたい事は、それだけか?」
麻衣子さんや奈央くんの思いを、無駄にするわけにはいかない。
「あ?」
「そんなことで、俺があの子を軽蔑するとでも?…まぁ、お前は別だがな。」
血の繋がりがなくとも、本当の父親として今度こそ守り抜くと決めたんだ。
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