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Page103:始まりの入り口

「ごめんね、泣かせるつもりはなかったんだ。」 「っぅ、」 シュンくんはコツンと額と額をくっつけた。 俺は頬を包み込むシュンくんの手を、ぎゅっと握る。 「僕が泊まりに行ってたのは、綾瀬家だよ。」 「え…?」 「ルイとメイの家。二人とも今年受験でさ、特にルイの成績が悪いから勉強見てあげてくれないかって頼まれちゃって。」 クスッと笑って、むにむにと俺の頬を優しく摘んで遊ぶ。 「ほら、あの時ナオくんソウと花火大会行っちゃったからさ。距離おいた方が気持ちの整理もつきやすいかなって思ったから…。」 「……お風呂入りに、帰ってきた…。ルイくんたちと、何してたの…。」 「あー、あれは、ルイが勉強飽きてジム行きたいって言うから付き合ったんだよ。ナオくんのことも心配だったから、様子見ついでにお風呂入ろうと思って帰ってきたんだ。」 「ふーん…。」 「安心した?」 「…してない。」 今まで感じてたモヤモヤはなくなった。 けど、まだ不安はある。 「ん?」 「…だって、ルイくんはシュンくんのこと好きじゃん。絶対寝てる時、匂い嗅いだり、乳首弄ったり、キスしたり、ペロペロしたり…」 「いや、それ全部ナオくんがすることでしょ。」 「何もしてない…?」 「してないよ、絶対。」 「じゃあ、許してやらんこともない…。」 「ふふ、ありがとう。」 誤解が全部解けた所で、シュンくんからチュッと触れるだけのキスを落とされ、また俺の中にシュンくんへの「好き」が積もった。 **** 『俺の名前はーーー!』 『俺はーーー。』 『俺は佐伯奈央。よろしく!』 高校生になって、初めて出来た友達。 『ナオ!』 『ナオ。』 二人の声が聞こえる。 『三年間、一緒のクラスだな!』 『ま、いつも通り仲良くしていこうぜ!』 楽しくて、笑い合った日々。 そんな日々も、今ではもう黒く染まった。 『やっ、ん…ッぁあ…!!』 「…ハッ、」 夢の中の自分の喘ぎ声で目を覚ました。 カーテンの隙間から日差しが入り、少しだけ部屋を照らしている。 隣を見ると、そこには誰もいなかった。 「ゆ、夢…。」 嫌な夢に、変な汗がでた。 「はぁ…、またこの夢…。」 俺は目元に腕を当て、薄れていった記憶を少しずつ思い出していく。

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