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「今から進路希望の紙を配る。自分の将来がかかってんだ、真剣に考えて決める事。」 配られた紙と担任の言葉が俺に重くのしかかる。 「真剣に考えるのなんて、就職組くらいじゃね?」 「まぁ、ここの生徒の大半はN大行くしな。ハルはもう学部決めてんの?」 「いや、まだ!ナツは?」 「俺もまだー。」 ハルもナツもN大行くんだよなぁ。そりゃそうか、俺もそのつもりでここの高校入ったし…。 でも俺…。 「ナオも学部決まってない?」 N大行きたくないなぁ…。 「あー、うん、まだ…かな…ハハ…。」 俺は白紙の進路希望の紙を鞄の中に入れた。 **** 「ナオー、バックヤードにある荷物の在庫チェックしてきてー。」 「はーい!」 ユウシくんに言われ、チェック表を持ってバックヤードに入る。 『ナオ、今日もバイトあんの?最近ずっとじゃん。』 『土日もフルで入ってるし…、全然遊ぶ時間ねぇなー?』 『うん、ごめん…。』 プライベートでは、なるべく二人と距離を置くためにハルが紹介してくれた本屋で働いている。詰めれるだけシフトを詰め、今日も二人の誘いを断ってきた。 でもここは短期の契約で入ってるから、次を探さなくてはいけない。 …てか、なんで俺がこんな目に…。 「はぁ…。」 「どうしたー?ナオ。ため息なんかついて…。」 「あっ、ユウシくん。」 「悩み事?お兄さんが聞いてあげようか?」 様子を見に来たユウシくんが俺の隣に立って、にっこり笑った。 「あ、や、別になんもないよ…!」 ハルのことなんて絶対言えるわけない。 「…ふーん?ないならいいけどさ。なんかあったら言えよ?」 「うん!ありがとう!」 ユウシくんの優しさが嬉しくて、へらっと笑い返した。久々に心がスッと晴れた気がしてユウシくんがこの本屋にいてくれてよかったとさえ思う。 「…ナオ…。」 「え?…ひゃ…っ、なに…っ?」 不意に名前を呼ばれてすぐ、ユウシくんの手がスッと俺の頬に伸びてきて優しく触れた。 「ん…っ?ユウシ、くん…?」 スリスリと頬を撫でるユウシくんの意図がわからず、頭の中がハテナマークでいっぱいになる。 「ユウシく…っぅいででででっ!!」 「ははっ、ナオ変な顔〜!」 「なっ、なんで急に抓るの…っ!?」 名前を呼ぼうとした瞬間、何故か抓られてじわじわと痛みが広がる頬を摩りながら、涙目でユウシくんを睨んだ。 「やー、ナオが可愛くてつい!悪かった!」 「は、はぁ?意味わかんない…っ、もう、痛いこと嫌いっ!」 「ごめんて〜!バイト終わり、ジュース買ってやるから許して!」 よしよしと俺の頭を撫でながら謝るユウシくんに、「本当に反省してんのか?」と思ったが、ジュースに釣られ許した。 「それにしても、ナオって結構シフト入ってるよなー?なんか欲しいもんでもあんの?」 「んー、俺、母子家庭だから極力自分のことは自分でやりたいし、家にもお金入れたいと思って!でも今年受験だから…。」 「あーなるほど。だから短期で?」 「うん…!」 本当は長期でもやりたいくらいだけど、なんだかんだハルと同じ空間はもう耐え難く、契約は短期にしてもらっていた。 「ユウシー、新刊の発注かけてー。」 「ういーす!…じゃ、終わったら裏で待っててな!」 「はーい!」 ヒラリと手を振ってユウシくんはバックヤードを後にする。そしてバイト終わり、言った通りジュースを買ってくれた。 「ただいまー。」 「あら、ナオおかえり!」 俺の声を聞いて、リビングからひょこっと顔を出す母さん。バイトの日は俺が帰るまで必ず起きて待っててくれるから、遅くても九時半までには帰るようにしている。 ご飯を食べてお風呂に入り、寝る支度を済ませて部屋へ向かった。 「…はぁ。」 今日配られた進路の紙。第一希望の枠の空白に、ため息が零れる。 「大学行かないって言ったら、母さん、怒るかなぁ。…いや、怒らないか…。」 嫌だと思うことを強制的にさせようとする人じゃないって俺が一番わかってた。 母さんは「自分のやりたいことをやりなさい」って言うに決まってる。 …母さんを、支えていきたいと思う。 大卒持ってた方が就職だって有利だし…男だったら尚更。 でも、ナツとハルがいる大学には行きたくないし、この近くだと俺の頭で行ける大学なんてないし…かと言って母さんを置いて県外は行けない…。 「…やっぱ、就職かぁ…。」 今から仕事探しとか、面接の受け方とか色々調べなきゃ…と思う反面、自分の選択が本当に間違ってないかと不安になり、その日はなかなか寝付けなかった。

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