122 / 146
Page122:ホレちゃいました
「今、お付き合いしている女性がいるんだ。」
「はぁ?」
女運の悪い父さんが、ある日突然、なんかほざき出した。
「結婚も考えている。」
「…正気?」
「ああ、もちろん。佐伯麻衣子さんと言ってな、とても素敵な女性だ。」
「………。」
「あと、息子さんが一人いるから兄弟ができるぞ!ほら、これが麻衣子さんと奈央くんだ。」
そう言って僕にスマホの画面を見せる。
そこには可愛らしい女性と一緒に笑う男の子が映ってた。
「…やめとけ。」
「やめない。」
「僕は反対だから。」
「なんでだ?」
「なんで?そんなの決まってるでしょ。その女もどうせあいつと一緒で、すぐ他に目移りするようなロクでもない…っぐふ!!」
なんでと聞かれたから答えただけなのに、気が付いたら後ろに吹っ飛んでた。
「麻衣子さんのことを悪く言うな。」
「………。」
「それに、麻衣子さんはあいつとは違う。一緒にするんじゃない。」
静かで落ち着いてる口振りでも、確かにそこには怒りがあって。
「…チッ、勝手にしろ。」
人生で初めて、父さんに本気で殴られた。
中学三年になる時、親が離婚した。理由は母の浮気。顔を合わせれば喧嘩していたし、きっと夫婦仲も良くなくて、浮気に繋がったんじゃないかと思う。
まぁ、だからと言ってしていい理由にはならいけどね。
息子が大事な受験を控えているにも関わらず、しかも何の相談もなしに、僕は突然父さんと二人で暮らす事になった。
掃除、洗濯、料理、買い出し諸々…今までやってこなかった事を毎日やる羽目になり、勉強時間は削れ、受験は見事に失敗。
滑り止めで受けた高校に入学した直後、髪を染め、分かりやすくグレた。
「シュンおはよーって、何それ、どうしたん?」
「…昨日、父さんに殴られた。」
朝、僕の顔を見て驚いた表情を見せるのは、中学からの友人、緒方錫(おがた すず)。
「すげぇ色して腫れてんなぁ…、何したんよ。」
「…急に再婚するとか言い出すから…反対したらぶん殴られた。」
思い出したらムカついてきて、眉間にシワを寄せた。
「まぁ、京介さんまだ若いし、いいんじゃね?」
「良くねぇよ。昔から女運悪いって自分で言ってたくらいだぞ。…今回もどんな女に絆されたのやら。」
「ははっ、お前の女嫌いに京介さんも苦労するなぁ。」
「うるせぇよ、喧嘩売ってんのか。」
今の僕にスルーできる余裕はなく、キッと睨みつける。
「おーこわっ!お前不機嫌だから関わるのやめとこー。じゃーな!」
そう言って緒方は、ヒラッと手を振り違う友達の所へ行ってしまった。
クラスの賑やかさが耳障りで、イライラしながら教室を出る。
「はぁ…。」
廊下の窓を開け、ため息をついた。
頬は痛いし、周りは煩いし、気分は最悪だし。
なのに空は清々しいくらいの青空で。
「…嫌んなるねー、ほんと。」
全てに嫌気がさして、再びため息をついた時。
「あ、あの…っ、」
声をかけられた。
ともだちにシェアしよう!