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Page122:ホレちゃいました

「今、お付き合いしている女性がいるんだ。」 「はぁ?」 女運の悪い父さんが、ある日突然、なんかほざき出した。 「結婚も考えている。」 「…正気?」 「ああ、もちろん。佐伯麻衣子さんと言ってな、とても素敵な女性だ。」 「………。」 「あと、息子さんが一人いるから兄弟ができるぞ!ほら、これが麻衣子さんと奈央くんだ。」 そう言って僕にスマホの画面を見せる。 そこには可愛らしい女性と一緒に笑う男の子が映ってた。 「…やめとけ。」 「やめない。」 「僕は反対だから。」 「なんでだ?」 「なんで?そんなの決まってるでしょ。その女もどうせあいつと一緒で、すぐ他に目移りするようなロクでもない…っぐふ!!」 なんでと聞かれたから答えただけなのに、気が付いたら後ろに吹っ飛んでた。 「麻衣子さんのことを悪く言うな。」 「………。」 「それに、麻衣子さんはあいつとは違う。一緒にするんじゃない。」 静かで落ち着いてる口振りでも、確かにそこには怒りがあって。 「…チッ、勝手にしろ。」 人生で初めて、父さんに本気で殴られた。 中学三年になる時、親が離婚した。理由は母の浮気。顔を合わせれば喧嘩していたし、きっと夫婦仲も良くなくて、浮気に繋がったんじゃないかと思う。 まぁ、だからと言ってしていい理由にはならいけどね。 息子が大事な受験を控えているにも関わらず、しかも何の相談もなしに、僕は突然父さんと二人で暮らす事になった。 掃除、洗濯、料理、買い出し諸々…今までやってこなかった事を毎日やる羽目になり、勉強時間は削れ、受験は見事に失敗。 滑り止めで受けた高校に入学した直後、髪を染め、分かりやすくグレた。 「シュンおはよーって、何それ、どうしたん?」 「…昨日、父さんに殴られた。」 朝、僕の顔を見て驚いた表情を見せるのは、中学からの友人、緒方錫(おがた すず)。 「すげぇ色して腫れてんなぁ…、何したんよ。」 「…急に再婚するとか言い出すから…反対したらぶん殴られた。」 思い出したらムカついてきて、眉間にシワを寄せた。 「まぁ、京介さんまだ若いし、いいんじゃね?」 「良くねぇよ。昔から女運悪いって自分で言ってたくらいだぞ。…今回もどんな女に絆されたのやら。」 「ははっ、お前の女嫌いに京介さんも苦労するなぁ。」 「うるせぇよ、喧嘩売ってんのか。」 今の僕にスルーできる余裕はなく、キッと睨みつける。 「おーこわっ!お前不機嫌だから関わるのやめとこー。じゃーな!」 そう言って緒方は、ヒラッと手を振り違う友達の所へ行ってしまった。 クラスの賑やかさが耳障りで、イライラしながら教室を出る。 「はぁ…。」 廊下の窓を開け、ため息をついた。 頬は痛いし、周りは煩いし、気分は最悪だし。 なのに空は清々しいくらいの青空で。 「…嫌んなるねー、ほんと。」 全てに嫌気がさして、再びため息をついた時。 「あ、あの…っ、」 声をかけられた。

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