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「…なんか用?」
今は誰かと話す気分になれなくて、視線は外を見たまま素っ気なく返す。
「あ、えっと、ほっぺ、痛そうだなーって…思って…。」
「あー…まぁ大丈夫だから。」
「ちゃんと手当した?」
「したした。だから気にしなくていーよ。」
本当は救急箱が見つからなくて、氷を当てただけ。まさか翌日こんな風になるなんて思ってなく、薬局でガーゼか何か隠せるものを買ってこればよかったと後悔していた。
「でも…。」
「あのさ、もうほっといてくんない?今は誰とも喋りたくない、から…って…、」
「あ、やっとこっち見た!」
しつこく話しかけてくる相手に痺れを切らし目を向けると、それを待っていたかのように男の子が微笑んでいた。
「………。」
「わー、口元も切れてるんだね…。今持ってるの絆創膏くらいしかないけど、使う?」
「え…。」
「あ、自分じゃ貼れないか!ちょっと待ってね。」
自分で取り出した絆創膏をペリペリと剥がし、僕の切れた口元にペタリと貼った。
「ん、できた!何があったかは知らないけど、あんま喧嘩しちゃダメだよ?」
スッと俺の頬を撫で、心配そうな顔を向ける。
こんな金髪頭で、顔にでかい痣作って、話しかけても目すら見ない相手なのに。
「ナオ何してんのー?次移動教室だぞー!」
「早く行こうぜー。」
「あ、ハル、ナツ!今行くー!」
友達に呼ばれ「じゃあ、俺行くね!」と僕に背を向け走り出そうとするその子の腕を、引っ張って止めた。
「…あ、ありがとう…っ、」
言い損ねていたお礼を言うと、一瞬キョトンとした後。
「うん!どういたしまして!」
と笑って、行ってしまった。
…これが初めてナオくんと交わした会話だった。
「んあ?なにシュン、保健室行ったの?めっずらしー。」
「行ってない。僕が保健室嫌いなの知ってるだろ。」
教室に戻ると、口元に貼られてる絆創膏を見た緒方が声をかけてきた。
「じゃあ、どったのそれ。」
「別に、さっき貰っただけ。」
「ふーん?」
適当に返事をして自分の席に座ると、タイミング良く担任が来て授業が始まり、緒方も自分の席へ戻る。
そして、ボーッと外を見つめて思い出すのは、さっき会ったあの子の事。
「"ナオ"って、呼ばれてたな…。」
…なんだろ。初対面のはずなのに、何処かで見たような、この感じは…。
『これが麻衣子さんと奈央くんだ。』
「っ!」
昨日の事を思い出し、ガタッと席を立つ。
「ん?どうした早川、質問か?」
「あ?…あ、いや、なんでもない…です…。」
先生に声をかけられて、授業中だったことを思い出し座り直した。
「…同じ学校なんて、聞いてねぇぞ…。」
…あの子が、僕の兄弟になる相手…か。
「佐伯奈央…、ナオくん…。」
さっきの反応からして、きっとまだ僕の事は知らないんだろうな。…兄弟になるかもしれない人を知って損はないし、ちょっと観察してみようかな。
高校一年の秋、ナオくんの存在を知り、出来心でナオくん観察がスタート。
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