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帰宅後、僕は直ぐに風呂に入った。今でも残る、彼女の甘ったるい声や、温度、感触。
こんな行為を「気持ちいい」だの「幸せ」だの、よく言ってられるな。
「…気持ち悪…。」
八つ当たりをするようにヤッたことへの後悔はあったが、嫌悪感が勝って彼女への罪悪感とかは全くなかった。
彼女とはその後特に進展する事はなく、そんな一般的に最低と言える行為をして数ヶ月。
「あー!シュンとクラス離れたっ!!」
僕たちは二年になり、緒方とは見事クラスが別になった。クラス替えはこの一年しかないから、もう緒方と一緒になることはない。
「…あ。」
「んぇ?なに?シュン。」
「あ、いや、なんでもない。」
そして緒方のクラスに書かれた、佐伯奈央という名前を見つけた。他に、小波春と神藤奈津も。
きっと喜ぶんだろうなぁ、と彼らを想像したら少しだけ口角が上がった。
「えーなんで笑ってんの…、俺と離れたことが嬉しいの?」
「別にそうじゃないけど。でもお前、休み時間はこっちに来てくれるでしょ?」
「そりゃあー、行くけどさー…。シュンも来てよ…。」
「気が向いたらな。」
ションボリする緒方の頭をポンポンと軽く撫でてやって、僕たちは自分の新しい教室へと向かった。
初めは義兄弟なんて冗談じゃないと思っていたけど、あの子ならいいかな…なんて。
****
月日は流れ、高校生最後の一年。
この学校はN大学に行く人が多い。
もちろん僕も緒方も、そこに行く予定。
…そして、ナオくんも。
「最近シュン、教室いねえ。」
「あぁ、この季節屋上が気持ちいいからね。」
「俺一人だし。」
「お前も来ればいいじゃん。」
「やだよ、寝ちゃう。」
去年までは「俺も行きたい!」とか言ってた緒方も、三年になってやっと危機感を覚えたのか、僕の誘いに乗って来なくなり感心する。
今日も天気がいいから、授業が始まる少し前に緒方を教室へ見送り、屋上に向かった。
「…あ?南京錠がない…?」
普段と何も変わらない日常。
「んー?なんかもうイキそうな?」
「ナオ、きもちいー?」
「ひぅッ、ぁっ、や、やぁ…っ!も、やらぁ…ッ!」
そんな日常が、今。
「イッていいよ、ナオちゃん。」
「イ…ッんぁあっ!!」
音を立てて崩れようとしていた。
「うそでしょ…。」
突然聞こえてきた喘ぎ声に、ドアノブに伸ばした手をピタリと止めた。
その声は、確かに聞き覚えがあって。
「ナオ、くん…?」
音を立てずに少し扉を開け外の様子を伺うと、そこには、仲のいい二人に挟まれるようにして、脱力しているナオくんがいた。
はぁはぁと肩で呼吸をして、顔を赤くし更には涙目で…二人は、そんなナオくんに欲情している。
「…チッ。」
音を立てずソッと扉を閉めた後、僕は扉を軽く蹴って階段を降り、すぐ近くの空き教室に身を潜める。
すると暫くしてからバタバタと二つの足音と、少し遅れて一つの足音が聞こえてきた。
気付かれないように階段の方を見ると、友人二人の後ろをついていくナオくんが見える。
「……へぇ。」
その顔は、戸惑いと恐怖が隠しきれていなく、同意ではなかったのだと察した僕は、授業終わり緒方を呼び出した。
「佐伯奈央?…あー、あの三人組の一人か。」
「ああ。」
「グループ違ぇし、そんな話したこともないけど…そいつがどうかしたの?」
「…お前の目が届く範囲でいい。休み時間、授業中…兎に角、いなくなったらすぐ僕に連絡してほしい。」
「えー、超めんど…」
「焼肉。」
「…え?」
「食べ放題。」
「了解しました!!」
こうして僕はチョロ…いや、頼もしい緒方と手を打ち、ナオくんを守ろうと決意した。
今はまだ赤の他人でも、いずれは家族になる。
家族を守るのは、当然でしょ?
「…でも、兄弟になるかもしれない人に知られたくないよなぁ。」
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