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その日も、いつものように二人からナオくんを守っていた。
「毎度毎度、飽きずに、懲りずに…よくやるよ。」
身を潜め、三人が教室に戻るのを見て、ため息をつく。
「…さて、どうしたものか。」
最近、ナオくんの様子がガラリと変わった。
楽しそうに笑わなくなったのは言わずもがな、毎日が憂鬱そうで、この状況が辛そうだった。
でも、あの二人は気付いてなくて、それがまた厄介というか、なんというか。
そして、気付いた事はそれだけじゃない。
彼らの…いや、主に"彼の"変化だ。ハルは本当に抜き合い程度で済ましてるんだろう…が、ナツは違う。
あの目は、ナオくんを友人以上の対象として見ている。
「…絶対、渡さないよ。」
自分の中に生まれる、ドロドロとした黒い感情。これはきっと、これから家族になる人に手を出されているから。
合意ならまだしも、一方的にナオくんを傷付けるのは許さない。だから自分ができる事は、全部してあげたいと思うんだ。
そう思った。そう思うようにしていた。…そうじゃなきゃ、ダメだと思ったから。
「あ、えっと…、俺…っぅわっ!」
「つっ…!」
放課後、曲がり角で人にぶつかり、尻餅をついた。これは完全に自分の前方不注意で、「なにやってんだ…」と呆れた時。
「ごめんっ、大丈夫?」
頭上から焦った声共に、スッと手が差し出され顔を上げる。
そこには、心配そうにこちらを見るナオくんがいた。
ちゃんと目を見て話すのは廊下で絆創膏もらった時以来で、その時とは髪色も違うし、反応からして気付いてないようだ。
「…大丈夫だよ。」
辛いのに、人の事を気にかけて差し伸べる手は、本当に優しくて…。
情けない自分を隠すように、笑った。
「僕の前方不注意だったよ、ごめんね。」
僕はナオくんの手をきゅっと握って腰を上げる。一瞬だったけど、手から伝わるナオくんの体温は本当に心地良くて、離したくないとさえ思った。
「ありがとう。」
何も知らなくていい。気付かなくていい。
「あ、いえ…。」
ちゃんと守るから。
きっと、もうすぐだから…。
「じゃあ、またね。」
だから、前みたいに笑ってよ。
そう声に出して言えないもどかしさを飲み込みながら、僕はナオくんと別れた。
それからすぐの事だった、僕に"変化"があったのは…。
「まいったな…。」
いつものように人気のない場所を探し、ナオくんの"声"が聞こえた時、いつもは反応しない自分のモノが反応した。
とりあえず物音を立てて三人を退散させ、僕は一人その場にしゃがみ込んでおさまるのを待つ。
「最近、全然反応しなかったのに…なんで…。」
…いや、これはたまたま。事故。生理現象。別にナオくんの喘ぎ声を聞いたからとかじゃない。
「はぁ…。」
くしゃりと髪を触りながら、そう自分に言い聞かせた。
「緒方、AV貸して。」
そうだ。最近抜いてないから、あんな事故が起きたんだ。
「エッ!?珍しい!いいよ!何がいい?警察官?看護師?」
「…普通の。」
「普通ってなんだ!…あ、今持ってるやつでいい?」
「いいけど…なんで今そんなの持ってんの。」
「友達に貸してたやつ、返ってきた!」
はい!と笑う緒方の手にはスク水の女が並ぶパッケージだった。
「観たら感想聞かせてね!」
「…勃ったらな。」
「え?」
「いや、なんでもない。」
そんなやりとりをして、僕は家に帰った。
父さんが帰ってくるまで時間がある。
試しに、と緒方から借りたAVを部屋で再生。
「………。」
今まで、こんな真顔でAVを観たことがあっただろうか…と思うくらい興奮も興味も湧いてこなくて。
「…折角借りたし、一応最後まで観るか…。」
それから約二時間半、ボケーと他人の性行為を見続け、気付けば父さんが帰ってくる時間になっていた。
緒方には悪いけど、「きっともうこのAVでは勃たないな」なんて思いながらDVDを取り出す。
「ただいまー。」
「おかえり。」
タイミング良く父さんが帰ってきて、僕たちは夜ご飯を食べた。
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