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Page131:いいもの

「ねーねー、どこいくのー?」 電車に揺られること数十分。 流れる景色を見ながらシュンくんに聞いた。 「んー?秘密♡」 「えー。」 でも行き先は教えてくれず、ぷぅ!と頬を膨らます。 そんな俺を、シュンくんは笑いながら「着いてからのお楽しみ」と言った。 「…あ、ナオくん降りるよ。」 終点の一つ手前の駅、シュンくんが俺の手を引いて電車を降りる。 外に出ると、ふわっと磯の香りがした。 「海だ!」 耳をすませば、少しだけ波の音も聞こえる。 キラキラした目でシュンくんを見れば、クスッと笑った。 「ふふっ、正解。でも、その前に寄るとこあるから。」 「寄るとこ?」 「うん。ここから近いし、すぐ済むからね。」 わしゃわしゃと俺の頭を撫でてからシュンくんは歩き出し、その後を付いていく。 それから暫く歩き、着いた場所は花屋さんだった。 「ちょっと待ってて。」 そう言ってシュンくんはお店の中に入っていく。 花屋さんなんて、お墓参りの時くらいにしか来たことがなかった俺は、「もしかして、シュンくんの大切な人のお墓で、恋人になった俺の事を紹介してくれるのでは!?」と、勝手に心を躍らせた。 「ナオくん、お待たせ…って、何してんの。」 「えっ!?あっ、やっ、別に!?」 頬に手を当てキャーッと一人で喜んでたら、シュンくんが戻って来てビクッと肩を揺らす。 そして、不思議そうな顔してるシュンくんの手に握られた紙袋に視線を落とす。 「それ買ったやつ?」 「うん、そうだよ。」 「なんの花買ったの?」 「んー?まぁ、後でね!」 また"秘密"。 今日はなんだか秘密が多いな〜と思いながら、再び二人で歩き出した。 「わー!誰もいなーい!」 着いた場所は、何故か墓場ではなくザザーンと波の音が響く砂浜。 肌寒い季節だからか、周りには誰もいなかった。 「めっちゃ綺麗!…あっ!ワカメ!シュンくんワカメあるよ!」 波に打ち上げられたワカメが砂浜に転がっており、興味津々で駆け寄って摘まみ上げる。 「ほらっ!ワカメ!」 「ほんとだねー。さ、汚いからポイして。」 「えぇー!」 ちぇっ!と砂だらけのワカメを渋々海の上にポイッと投げると、そのまま波と一緒に深い方へ流されて行った。 「あ、カニいるかな!?カニって、よく浅瀬でさ…、」 「ナオくん。」 今度はカニを探そうとした時、シュンくんが俺の言葉を遮って名前を呼んだ。 振り向くと、いつもとは違い真剣な顔したシュンくんがいて。 「あのさ…。」 「うん?どうしたの…?」 なにか大事な話をしようとしてるのがわかって、少し緊張しながら近寄った。 「ナオくん、僕…ナオくんが好きだよ。」 「…俺も好きだよ?」 急な言葉に、そう返す。 「ふふっ、うん、嬉しい…ありがとう。」 "好き"なんていつも言ってるし、なんならここに来る前にも言ったのに、この時のシュンくんは本当に、本当に嬉しそうで…。 「シュンくん…?」 泣いてしまいそうな顔をするから、俺も少し泣きそうになった。 「あぁ、ごめんね。大丈夫だから。」 そんな俺を見て、シュンくんがクスリと笑う。 そのいつもの笑顔に安心した。 「じゃあここで、ナオくんにいいものあげようかな〜?」 「いいもの!?」 「なんだと思う?」 「えー!わかんなーい!お菓子!?」 シュンくんの言う"いいもの"に釣られ、緊張感のあった雰囲気はなくなって、食い気味で聞く。 「あー、そっかぁ…ナオくんにとってのいいものは、お菓子かぁ。」 「え?違うの?」 「んー、ちょっと違うかな〜。」 シュンくんはクスクス笑いながら、ポケットから小さな箱のようなものを出した。 「食べ物じゃなくて、ごめんね。でも、気に入ってくれると嬉しいな!」 「え…。」 シュンくんは、その中に入っていたものを取り出し、俺の首につけてくれた。 「ネックレス…?」 「うん。」 「これ……。」 ヒヤリと冷たい金属にリングが通されていて、それをシュンくんに見せるように持つ。 するとシュンくんが同じ箱から、またネックレスを取り出して、今度は自分の首につけた。 そこにも同じリングが通されていて…。 「ペアリング。内側にね、名前入れてあるんだ。僕のは"Nao"、ナオくんのは"Shun"。」 「………。」 「…本物はまだ渡せないから、"予約"ということで…。」 そう言ってシュンくんは、少し照れくさそうに笑った。

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