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Page134:泣かぬなら
シュンくんと話し合って決めた。
ここまで育ててくれた人たちに、騙すようなことは出来ない。
義理でも兄弟で恋愛感情を抱いてしまった俺たちは、正直に話して、その結果を受け入れる責任がある。
「………。」
「……え……?」
「突然、こんなこと言ってごめんなさい……。でももう、これ以上隠してはいけない…っ、」
まるで、泣くのを耐えているかのようなシュンくんの声に釣られて泣きそうになる。
こんなの、やっぱやめとけばよかったって思う自分さえいる。怖くて、怖くて、仕方がない。
「……本当なの?ナオ…。」
「…っ、」
微かに震えつつも冷静な声で母さんに名前を呼ばれ、ビクリと肩を揺らす。
タラ…と汗がコメカミを伝い、心臓をより早く鳴らした。
…けど、俺の口から言葉が出てくることはなく、まるで発し方を忘れてしまったかように小さく口を開けては閉じる。
「…ナオ…?」
どうしよう、早く何か言わなきゃ。
そう思えば思うほど、体の中の臓器が押し潰されるように苦しくて。
「ぁ…っ、……、」
呼吸のタイミングと、声を発するタイミングが噛み合わなくて消えていく。
母さんと父さんの視線が俺に刺さって、まだ何も言っていないのに目に涙が溜まり、キュッと唇を噛んだ時。
「ナオくん、大丈夫。ね?落ち着いて。」
シュンくんが優しく微笑んで、俺の手汗も気にせず手を握ってくれた。
手のひらに伝わるシュンくんの温度が、すごく俺を安心させる。
「か、母さん……、」
まだ少し震える声だったけど、ようやく言葉を発することができた。
ずっと守られてばっかりだったから、今回は二人でちゃんと乗り越えるんだ。
「シュンくんの言ったことは、ほっ、本当だよ……っ!」
緊張しすぎてつい声を張ってしまったが、大切なのは言葉にすること。
「男同士で…きっ、気持ち悪いかも、しれないけど…っ、遊び半分とかじゃなくて、真剣にシュンくんとお付き合いしてて……。その……ごめんなさい…!」
言いたい事もまとまらず、ちゃんと伝わっていないかもしれないけれど、今の俺にはこれが限界で…。
繋がれたシュンくんの手を強く握り、俯きながらも、必死に伝えた。
「…ナオ、顔を上げなさい。」
「…っ、…母、さん…?」
母さんの声に恐る恐る顔を上げると、そこには必死に涙を堪える母さんがいて、傷付けてしまったんじゃないかと、今までで一番心臓が痛くなった。
「ナオくんに、シュン。」
「っは、はい、」
「…はい。」
そんな時、不意に父さんに名前を呼ばれ声を裏返しながら返事をすると、少し間を置いてからゆっくり口を開いた。
「お前たちは、自分が何を言っているのか…わかっているのか?」
静かで、とても重い声と言葉。
でもそれは、怒りとかじゃなくて俺たちを心配しているように思えた。
「…わかってる。僕たちは、全てを覚悟した上で、こうして父さんたちに話しているから。父さんや母さんには、本当に申し訳ないと思っているよ。ただでさえ、男同士って事で嫌な思いをさせ…」
「わかってないっ!!」
突然、シュンくんの言葉を遮るように母さんが叫んだ。
俺とシュンくんが目を見開きながら母さんを見ると、堪えきれなくなった涙がボロボロと零れ落ちていく。
そんな母さんの姿を見るのは、想像以上に辛くて、これが俺たちに課せられた責任なんだと自分に言い聞かせた。
「なにもわかってないじゃないっ!私が…っ、私たちが…っ!あなた達を気持ち悪いって、嫌だって、思うはずがないでしょ!?」
「え…?」
「か、母さん…?」
だが、母さんの口から出た言葉は予想外で、二人揃ってキョトンとする。
だって俺たちが覚悟していたのは軽蔑と絶縁。
「確かに世間では、まだ同性愛への理解が薄いかもしれない…、けど、人が人を好きになるのは、おかしいことでも何でもないわ!誰にだって人を好きになる権利はあって、それを奪う資格なんか誰にもない!」
なのに母さんの台詞は、それらとは一切かけ離れたもので…。
「だから……っ、お願いだから、もっとっ、ちゃんと…っ、胸を張りなさい!」
その言葉たちに、グッと熱いものが込み上げてきて、視界を歪ませた。
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