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Page135:一緒に泣こう

「好きならちゃんと前を見て…胸を張って、好きだって言えばいいの…。」 「う…っ、」 「ねぇ、ナオ?」 「は、い…っ、」 「ナオは、誰が好きなの?」 「お、俺は…っ、俊くんが好き…っ!!」 ずっとずっと、怖くて言えなかったけど…、本当はね、言いたかったんだ。 「…シュンくんは?」 「僕は…っ、奈央くんが好きです…!」 一緒に生きていきたいと、一生を捧げたいと思った人ができた事を、世界でたった一人の母親である、貴女に。 「…そう、あなた達は本気なのね。」 母さんは涙で少し赤くなった目を細め、微笑んだ。 軽蔑も偏見も怒りも…そのどれも当てはまらない、優しい表情で。 俺は溢れた涙を拭き、隣にいるシュンくんもまた、隠すように涙を拭いていた。 「…京介さん。二人に言いたい事、ありますか?」 母さんの言葉に、ドキッとする。 父さんは、ただただ母さんと俺たちのやりとりを黙って見ていただけだった。 母さんが優しかったからといって、父さんもそうとは限らない。 「そうだな……とりあえず二人とも立って、そこに並びなさい。」 「「え……?」」 「京介さん…?」 先ほどとは違い、ワントーン低めの声で険しい顔をしている父さんに、母さんも心配そうな顔でこちらを見ている。 「聞こえなかったか?そこに立って並べと言ったんだ。」 鋭い目付きに、俺たちは二人揃ってゴクリと息を飲んで席を立った。 やっぱり一発や二発、殴られる覚悟は必要みたいだ…と思いつつ、シュンくんと一緒に父さんが指を差す場所に並ぶ。 父さんから放たれる威圧感にビビり、情けなく震える俺の手を、シュンくんは強く強く握る。まるで「大丈夫だよ」と言ってくれてるみたいで、一人じゃないことを実感し、俺も強く握り返した。 「お前たちは、覚悟があるって言ったな?」 「はい。」 父さんの問いかけに、シュンくんが答えた。 その眼は真っ直ぐ父さんを見つめ、決して逸らそうとはしない。 そして、シュンくんの返事を聞いて父さんも立ち上がり、俺たちの前に来た時、俺の肩がビクッと跳ねた。 「シュン、ナオ。」 「…っ、」 「……っ!」 名前を呼ばれたと同時に、父さんの手が上がって「殴られるっ!」と目を固く閉じた瞬間。 「……えっ…?」 「ふぁ…っ?」 俺たちに降ってきたのは、頬への衝撃ではなく……父さんに抱き締められた温もりだった。 「と、父さん…っ?」 「っ?っ?」 突然の事で俺は何も言えず、ただただ今のこの状況を把握しようと必死になる。 「お前ら…っ、よくも俺の大事な息子に手を出してくれたな…?」 そんな時、耳元で聞こえた微かに震える父さんの声。 ……父さん、泣いてるの……? 「…っ、……いいか、よく聞け。お前たちが歩もうとしてる道は、決して楽じゃない。後ろ指差されるかもしれない。冷たい目を向けられるかもしれない。…その事で、たくさん傷付くかもしれない。」 一言一言耳に入ってくる言葉たちは、決して考えなかった事ではないけど、改めて思い知らされる。 「そのリスクを背負ってでも、お前たちは本当に一緒にいたいと思うか?その覚悟が、本当にあるのか…?」 キツく俺たちを抱き締める…大きくて逞しい父さんの腕。いつも穏やかで優しい父さんが、初めて見せた涙。 「うんっ、あるよ…っ!俺は絶対、俊くんを離さないから…っ、約束するっ!」 本当に大切に思ってくれてるからこそ、心配でたまらないんだ。 「…シュン?ナオくんは、ちゃんと言ってくれたぞ?」 「…っぅ、僕だって…っ、それ以上の覚悟はある…っ!そのリスクを背負ってでも、奈央くんと一緒に……っ、一緒にいたい…っ!!」 シュンくんの泣き叫ぶような声に、更に涙が溢れてくる。 俺もシュンくんも、父さんを抱きしめ返すように背中に腕を回した。 「お前たちは俺の…、俺たちの大事な息子だ。幸せにならないと、許さないからな。」

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