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イベントクエスト、ランボ式(2)

 食器の片付けがてら詩絵里に頼まれたおつかいを終え、ナトリトン地下遺跡まで移動した。  ここは最深層が20層なので、比較的攻略しやすいダンジョンとのことである。  イベントクエストの「報酬」欄に記載があった「スキルにより防衛されているダンジョン」に当てはまる――つまり、ここは転生者によって作られているダンジョンということになる。  ダンジョンには転生者の作ったものと、以前からこの世界にあったものの2種類があり、こちらは前者のダンジョンなのだ。 「透くんは確か転移だけじゃなくて、攻撃魔法も使えるのよね?」 「は、はい」 「転移も半自動の発動だから、魔物から不意打ちされることもないってことで、オーケー?」 「大丈夫、です」  その点については、ウィルにも確認済みだ。  詩絵里の質問に首肯する。 「だったら私たちの戦闘スタイルとしてはこうね。勝宏くんが前衛、透くんが遊撃、私が後衛。場合によっては透くんも私と同じ位置から完全な後衛に回ってもらうかもしれないけどね。後ろから来る敵を警戒することは出来る?」 「えっと……」  ウィルに任せればそれは出来るとは思うけれど、引き受けてくれるだろうか。 『問題ない。俺が見ててやるから気にすんな』  透の迷いを読んで、ウィルが補足してくれた。 「……出来ます」 「助かるわ。じゃあ先頭を勝宏くんに進んでもらって、真ん中私、最後尾が透くんね。トラップのたぐいの看破は私に任せて」  最後尾。責任重大だ。気を引き締めていこう。  詩絵里が言うには、ダンジョン作成系のスキルを持つ転生者は、ステータスやサブスキルも防衛系に寄りがちなのだという。  加えて、勝利条件は所持スキルに関連したものになりやすい傾向にあることが知られている。  つまり、このダンジョンを作った転生者がダンジョン内部に居たとしても、侵入者へはトラップや魔物で攻撃を仕掛けるしかないのである。  それらに気をつけていれば、この20層しかないダンジョンは通常のダンジョンと変わらず、かつ踏破報酬250ptを得られる狙い目のスポットなのだ。  まあ、天然のダンジョンと比べ、ゲームに慣れた日本人が作ったダンジョンは攻略難易度が高そうではあるが。  割り振りを終え、1層目に入ったところで勝宏が振り返る。 「でもさ、詩絵里」 「なによ」 「今思ったんだけど、ダンジョンに入った中で転生者とかち合ったら結局戦いにならねえかな」 「ありえない、とまでは言えないけど、可能性は低いわ。透くんと勝宏くんは外見が明らかに日本人。イベント中に、転生者二人を含む三人のパーティーに挑むようなやつはそうそう出てこないはずよ」  彼女の推測は一理ある。  今は、実入りの大きく危険度の少ないイベントクエスト中。  自分と同等のチートスキル、チートステータスを持った転生者が少なくとも二人組んでいるところに、なにもわざわざリスクをおかして突っ込むことはないだろう。  「期限なし、ハイリスク、ハイリターン」の案件と、「期限あり、ローリスク、ハイリターン」の案件が二つ目の前にあれば、後者を優先するのは当然だ。  よっぽどの戦闘狂じゃなければ。 「てか、マスク付けたままダンジョン潜る気か?」 「暗がりの閉所でしょ。何が起こるかわからないじゃない、君たち」  まるで彼女に影響があるのではなく、勝宏や透に気になることがあってマスクをつけている、というような口ぶりだ。  なんだろう。ひょっとして汗臭いのかな。  勝宏の服は日本で毎日洗って替えを持ってきているし、自分もあちらに戻るタイミングでシャワーを浴びて制汗剤まで付けてきているのだけれど――いや、女性は特にそういうのに敏感だと聞いている。  制汗剤、こっちに持ち込んだ方がいいかもしれない。  透が次に日本から持ち込むべき物資を検討している間にも、1層目の魔物は勝宏一人に蹴散らされていく。  武器も市販のナイフと拳、勝宏はまだ変身すらしていない。 「見ていて気持ちいい瞬殺っぷりねえ」  1層目の魔物はほとんどがゴブリンやスライムばかりで、低級ゆえか知能も低い。  詩絵里の大砲どころか透の魔法さえ一度の出番もないまま、2層目に突入だ。  2層目の魔物も、レベル帯は大差ないと言えるラインナップだった。  食材としてお馴染みホーンラビット、それからレッドスライムだ。  やっぱりこちらも勝宏の先行ワンキルが続く。  浅い階層だからか、これといって注意すべきトラップの類もない。  そのまま3層目、4層目も後衛二人に出番は無く、勝宏のスキルの出番もなかった。  5層目に入ろうとしたところで、詩絵里からストップがかかった。 「ちょっと待って勝宏くん」 「うん? 罠か?」 「そうじゃないわ。たぶん……先客が交戦中ね」  転生者だけしか入れないダンジョン、というわけではないので、無論ここには一般冒険者たちも素材集めなどを目的に訪れる。  次の階層で戦っているのは、一般冒険者なのか転生者なのか。  5層ごとにボスが出るという情報は事前に詩絵里から聞いているので、透たちよりも先にこの地下遺跡を訪れ、ボスとの交戦が長引いているうちに透たちが追いついてしまった、というところだろう。  長引いているということは、短時間で撃破できるステータスを持っていない――転生者ではない? 「どう、しようか」 「苦戦してるかもしれないし、行ってみようぜ。万一こっちを襲ってくるようなヤバい奴だったら、透は転移で地上に避難」 「そんな過保護にならなくても、せっかく一緒に戦うって言ってくれてるんだから頭数に数えてもいいじゃない。ねえ透くん」 「あ……その……」  前衛に適さないメンバー二人に対し、前衛は勝宏一人だけ。  彼の負担も考えると大人しく従うべきなのだろうが、本音は詩絵里の言うように、少しだけでも力になりたい。  返答に困っていると、詩絵里が勝宏に畳み掛け始めた。 「だいたいね、勝宏くん、危険から遠ざけてばかりじゃなくて、しっかり手の届くところで守ってあげなきゃでしょ? 透くんを転生者だと思ってた頃はそうしてたんじゃない。初志貫徹しなさいよ」 「ああ。ごめん。誰が相手でも俺が守る」  この展開、事情だけバレておいてこれまでのように勝宏と二人だけだったら、透は間違いなく避難することになっていただろう。  改めて詩絵里が居てくれてよかったと思う。  5層目に踏み込むと、そこはワニサイズの巨大なトカゲ三匹と小学生くらいの少女ひとりが対峙している場面だった。 「な、仲間は……」 「あのトカゲに食べられたんじゃなければ、ソロ攻略の転生者なんじゃないかしら」  食べられた、と詩絵里がさらりと言うものだから一瞬背筋が凍ってしまった。  三対一で苦戦する様子に、勝宏が駆け出す。 「うちの前衛、敵か味方かはっきりしないうちから飛び出しちゃうのも困りものね」  呆れ声で、彼女もまた魔法の詠唱を始めた。  魔方陣の色からして、水か氷系統だろうか。地下遺跡で炎を使うわけにもいかない。  透も彼女に倣って、石の弾丸をトカゲに撃ち込む。  突然の乱入者に、少女が声を上げた。 「誰!?」 「手が足りなさそうだから、助太刀してやるよ!」  トカゲの一匹に、勝宏の回し蹴りがヒットした。

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