6 / 22
第6話
こちらが学生だからか、しっかり駅まで送って手を振ってくれた元気はあれからどうやら本当に現住所まで自転車で帰ったらしい。それも、乗っていた電車から考えて、最低でもあと一駅は向こうの駅から。現住所はどこなんだろう。調べて押しかけたいわけではないが、住所によっては待ち合わせ場所や待ち合わせ時間をあちらに合わせた方がいいような気もする。
二十三時ごろ、自宅のベッドに潜り込んだあたりで元気からメッセージが飛んできた。
一度目の部屋探し日程はカフェ内でフライドポテトをつまみながら決定していたので、送られてきたメッセージに重要性はないことは予想がついていた。が、本当に彼からメッセージが飛んできたことでその日の出来事が白昼夢の類ではないとはっきり分かってベッドの上でひとり身悶えた。
壁一面に貼られまくった七星元気ポスターのせいもあって、顔を上げたらポスターと目が合うこの環境はなかなか、落ち着かない。癒しの空間だというのに。本物、めちゃくちゃ魅力的だった。これは女子人気出るよ。仕方ないよ。格好良すぎる。
感嘆の溜め息は、翌日になってもおさまることがなかった。父の分といっしょに洗濯物を干しながら、ここ数日の怒涛の展開に気持ちが追いついてこない。
母は病で他界していて、家事のほとんどは帰宅が遅くならない限りは父の分含めて自分が担っている。学校帰りに外で遊びたい時や部活が遅くなる時は早めに連絡すれば家のことはやっておいてもらえるし、出来合いの夕食のメニューや掃除洗濯の出来に文句を言われることも一切ないので特に不満はない。男二人というのは結構気楽なものである。
洗濯物を終えて、自室に戻る。PCを立ち上げたのはツイッターのアカウントを作成するためだ。
登録完了後すぐに七星元気で検索をかけ、本人のツイッターアカウントをフォローした。このアカウントは本人が管理しているわけではないという噂も聞いていることだし、二十八万人もフォロワーがいるなら、自分が一人その中に加わったところでばれやしないだろう。
ただでさえ酷い戦隊オタクがさらに加速しそうだったのでこれまでツイッターに手を出したことはなかったのだが、スマホにアプリを入れたら携帯からでも閲覧ができるものらしい。ツイッターのアプリを入れ、ログインを済ませる。瞬間、スマホのバイブレーションがなってツイッターアプリに通知が入ってきた。
プロフィール画像も設定していない一高校生のアカウントに、何故かフォロワーができたようだ。このフォロワーの特撮アイコンからして、特撮出身俳優をフォローしている人を見境なくフォローしているタイプだろうか。そのわりにフォロー数も微妙である。よく分からないアカウントからだったので、特に気にせず、他のアルカナファイブ出演者も一通りフォローして回ってからアプリを閉じた。
さて。課題は内職で授業中に終わらせてあるし、今日は思う存分DVD観賞だ。父親が外出しているのをいいことに、オープニングの主題歌を熱唱しながらテレビに張り付く。この主題歌、TVサイズ版とアルバムのフルサイズ版では冒頭の歌詞が違うんだよな。フルサイズ版の方がまとまりはあるけど、TVサイズ版の歌詞の方が夢があって好きだ。
上機嫌でサブタイトルを待っていると、タイトルコールのBGMと被るように携帯が鳴った。至福の特撮タイムを邪魔してくる輩など、目星はついている。
「やっほー宗太くーんげんきー?」
スマホの受話ボタンをタップしたところで、矢野誠一の声が聞こえてきた。テレビはすかさず一時停止だ。手早く終わらせることにしよう。
「今日は何。極道の奥さんに手出して追われてる?」
「こわいこわい! 俺だって相手くらい選ぶわ!」
「じゃあメンヘラに手出して無理心中させられかけてるとか」
「宗太くん発想がこわいぞ!」
「いっそそうだったらおもしろいのにと思って。俺今からアルカナファイブの三十四話から三十六話通しで見るから用がないなら切るよ」
「待って! 待って! 今日は女の子から面白い噂聞いたから宗太くんに共有してやろうと思っただけ!」
手早く終わらせる良いタイミングだと思ったのだが、あえなく失敗した。もう少し話は続きそうである。
「噂?」
「ほら、アルカナファイブのサブキャラにいたろ。病気で休業中の、福島なんとか……」
「グリーンの中の人の名前は福島翔。休業って言っても写真集とか印刷物系の仕事は普通に受けてるし、役者の仕事を断ってるだけ。あとグリーンはサブじゃない」
「なんか緑が一話で死んで以降一回も復活しなかった戦隊なかったっけ」
「あるけどそれはグリーンがメイン五人に含まれてない作品だろ。アルカナファイブはちゃんとグリーンもレギュラーなんだよ」
「ごめんって。俺ライダー以外はうろおぼえでさ」
うん、あんたは単車ライダー派だからね。こっちもライダーはうろ覚えだけど。
「で? 福島翔が何か? 適当なゴシップには興味ないよ」
「あの人さ、もう声出ないんだってさ」
「……病気で?」
「声帯切除したらしいって。役者としては致命的だから、引退する方向で話進んでるらしいんだと」
「悪いけど。ソースが確かな話しか信用しないことにしてるから」
「信用が足りてない……」
アルカナファイブメンバーは、たしかLINEグループなんかも作ってよく誘い合わせて遊びに行くくらい仲が良いことで有名だったはずだ。仲間の一人がそんな大変な状況になっていたなら、あの分かりやすい元気の表情に出ていても不思議ないのだけれど。どうせゴシップだ。
ともだちにシェアしよう!