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第11話
スマホの向こうから、誠一の大爆笑が耳元に届く。
「あっはっはっは!」
「わらうな」
本日のデート反省会は早々に切電して終わらせた方がいいだろうか。先日と同じように一方的に通話を終了しようか、ちょっとだけ迷う。
「そっかーとうとうレッドさんにそっちがバレたか!」
「今度、アルカレッドの私服衣装見せてくれることになった」
「ノリノリで戦隊語り楽しんできてんじゃん」
「よくぼうにあらがえなかった」
「戦隊中毒かな」
「あと……」
「ん?」
「声、ほめられた」
「好みの声だって?」
「うん」
誠一に連呼される「かわいい」と、彼に言われる「かわいい」では聞こえ方に雲泥の差があるのは自分の憧れフィルターによるものなんだろうか。そもそも男なのでかわいいと言われてもたいして嬉しくはないのだけれど、あのひとからの評価はたとえ子ども扱いでも、面映い気持ちで黙って受け入れたくなる。
「この間あんたも言ってたけど、あんまり何度も会ってるわけじゃないのに、俺、結構最初から、あのひとに気に入られてる気がする。なんでだろう」
気に入られる要素、むしろどこにあった? 一度目の夜道での出会い、二度目の痴漢騒動、三度目と四度目の部屋探し。思い返してみても、さほど変わったことはしていない。どころか今回は、隠していた戦隊オタクが露呈してしまった。それも本人の歌で。
元気の中では、彼に殴りかかってくるファンの女の子と同じ立ち位置に置かれてしまったことだろう。そうなると、誠一に協力してもらいながらの目的である「好かれたい」からは遠ざかったはずだ。
「宗太くん、声褒められたんだよな? 一回自分の声、スマホか何かで録音して聞いてみたら?」
「声とか、自分のなんて興味なかったから気にしなかった」
「自分に聞こえてる自分の声と、実際の声って結構違うもんだぜ。うろおぼえだけど確か、頭蓋で反響して、自分の頭に響く声って実際と違う音になってるんだってさ」
録音してみたら宗太くん、何か気付くんじゃねえかなって思って。
続く誠一の言葉には、なにやら含みがあった。
「一回録音してみ。それで思ったこと、レッドさんに言ってみればいい」
じゃあ、録音しておくんだぞ。言って通話を終える間際、誠一がもうひとつ付け加えてきた。
「ああ、あと。こないだ女の子から聞いたんだけどさ。レッドさん、つい最近まで同じ俳優仲間の友達と二人でルームシェアしてたらしいぜ。参考までに」
最近までルームシェアしてた人がいる。なるほど、だから今引っ越し先を探してるってわけか。誰かと一緒に住んでたなんて情報、聞かないけどな。
通話の終わったスマホを充電器に、明日の祝日は特に予定がない。どうしようかな、とベッドに腰を下ろしたところで、充電器のコードが振動した。携帯の通知バイブだ。
充電器に差したままベッドへスマホを引き寄せる。画面のロックを外すと、それは元気からの連絡だった。暇だったら明日も付き合って、そんな内容のメッセージに、すぐにわかりましたとメッセージを返す。
待ち合わせ場所は、今日と同じ場所を指定された。回りそびれた物件でもあったんだろうか。
指定の時間はいつもと同じ。ひとまず、コーチへは明日も連続でお誘いがあった旨の報告だけはしておこうと思う。トーク画面をスクリーンショットして、誠一へも同じ情報を転送した。
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