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第13話
……結局、カラオケボックスの中では作中の台詞をリクエストすることなく、そのままの衣装でツーショットの写真を一枚撮らせてもらうだけに終わった。結果的に素顔の戦士たちに会える例のイベントでよく見かける写真ができあがっただけだったが、背景が明らかにカラオケボックスなあたり異質である。もう戦隊オタクはバレてしまっているわけだから、待ち受けはこれにしてしまおう。ちゃっかりスマホの最高画質選択して写真を撮ったので、自宅のプリンタで印刷して壁に貼ることも可能なサイズだ。抜かりはない。
夕方からの追加の物件をひとつだけ見学し終えて、いつものように食事をして。帰り道、人通りの少ない線路沿いまで出たあたりで、ふいに元気が足を止めた。
「あのさ。さっきの部屋が、候補の最後だったんだ」
夕暮れに彼のシャツと、自分のシャツとが同じ色で染まる。長く伸びた影に向かって落ちてゆくその言葉は、こうして二人で出かける機会がこれで最後であることを意味していた。
「そうなんですね。お部屋、どこにするんですか?」
不満はない。これが最後だったなら、二日目に一緒に回ったってよかったはずだ。それをあえて今日までもう一日引き延ばしてくれたのは、先方の都合とかじゃなくて、今日初めに言っていた「ちょっと宗太と遊びたかった」が理由なんだと思うくらい、自由だろう。
「……あー、終わっちまった」
こちらの問いかけには答えることなく、一歩後ろで元気がうなだれる。様子のおかしい彼が気になって、少しだけ戻って顔を覗き込む。
「あの……?」
「宗太。部屋探しが半分くらい口実だったって言ったら、怒るか」
「元気、さん?」
「帰したくない。もっと一緒にいたい」
顔を上げた彼の目がぎらりと光ったように見えた。腕を掴んで引き寄せられ、次の瞬間、彼にきつく抱き締められる。
「おまえと、理由なく、会える関係になりたい」
恋の魔法って、なんだっけ。近付いてくる彼の唇から目が離せなくて、思わず目を瞑る。噛み付くような口付けは最初から激しかった。だのに、歯列を割って舌が口内に入り込んでも、拒絶も抵抗も脳裏に浮かびさえしなかった。
だめだ。誰かに見られたら。俺はよくても、この人は。
力の抜けそうになる手で、密着する彼の胸板を押し返す。元気はこちらを解放すると、眉を下げて視線を落とした。
「悪い。その……いや、だったか?」
「……いやじゃ、ない、です」
魔法はもっと、春の日差しのようにやわらかで、ふわふわしたものだと思っていた。こんな、どうしようもなく欲しくてたまらなくなるような、一歩間違えれば身の破滅を招くほどの強い感情を生むものだなんて、知らなかった。
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