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第19話
力になると言ってくれた誠一を利用するようだが、使えるものはすべて使っていかないと一般人の自分が芸能界にいるような華々しい層の人間にコンタクトを取るなんてできそうもなかった。
こちらとしては、得ておきたい情報なんてそう多くない。オーディションはもう完全に手遅れなのか。エフ・コーポレーション関係の雑務で多忙になっているだろう福島が時間を取れるタイミングはどこなのか。どこに行けば会えるのか。その程度である。
いくら女性がゴシップ好きだからといってそんなことまで分かるものなのか、と思うような話まで集めることができる誠一だ。彼はともかく、彼に情報を提供する女性たちがいったいどこからネタを仕入れてきているのかちょっと気にならなくもない。
「宗太くーん? アポは取れると思うぜ」
「ほんと? 付き合わせてごめん」
誠一からかかってきた電話に出ると、こちらの希望がそのまま通ったらしいことが知らされた。
「お兄ちゃん的には、ごめんじゃなくて「お兄ちゃんありがとー!」って言ってほしいかな」
「ありがとう、誠一」
「えっ? うそ、宗太くんが素直だ!」
「素直じゃ駄目なの」
「ぜんぜん駄目じゃない。素直な宗太くんかわいい」
「あんたに言われても」
「はいはい、レッドさんじゃないと嫌なんだよね宗太くんは。ていうかさー、宗太くんから連絡来た時てっきり俺レッドさんに復讐すんのかと思ってちょっとテンション上がったんだけどー」
「するわけないじゃん」
「終わったらプチ嫌がらせくらいはさせてもらいたいよな」
「元気さんになにする気か知らないけど、へんなことするなら全力で阻止するよ」
「ええ、たまにはお兄ちゃんの味方してくれてもよくない? まあ、ある意味この計画も意趣返しにはなりそうだけど」
彼の背中を押すための計画を、プチ嫌がらせとやらと同列に表現されるとちょっと反発したくなってくる。なんの見返りも用意できないのに付き合わせているのはこちらなので、流石にそこまで余計なことを言うつもりはないけども。
「レッドさんのこと、まだ好きなんだろ?」
「好きだよ」
「ほんとに、いいんだな?」
「いいよ。俺が勝手に好きになっただけなんだから」
「あー、マジで、若いっていいな。好きな人を取られるかもしれないってのに、それでもいいなんて、俺そんな情熱的な恋したのいつが最後だろ」
もう少し早く、彼が運命の人と出会う前に自分が会えていたら。こういう場面なら、そうやって仮定の話をして悲恋に浸るものなのかもしれないが、自分の場合はそうなると最初から成り立たない。元気が福島翔と出会って、恋をして、そして福島が声を失わなければ、彼と自分の人生はただの一度も交わることさえなかった。
きらきらの魔法をありがとう。いつかこの魔法が解ける日が来ても、誰かによって上書きされる時が来ても、ずっと大好きだと胸を張って言える。
「それより、いつになるの」
「土曜の午後十五時。宗太くん、部活は?」
「始まってるけど、計画的に風邪で休むことになってる」
「わお、いけない子だあ」
普段が優等生面を張り付けて生きているので、一度や二度仮病を使っても誰も怪しむ者はいない。日頃の行いが良いのだ。
「元気さんをその時間帯に、帰らせなきゃいけない。それは福島さん以外では、たぶん俺にしかできないことだから」
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