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第2話※
別に男じゃないと愛せないってわけではないし、自分が女の子を口説こうと思ったら九割くらいの確率で成功する顔面であることは自負している。
じゃあなんでこんなおっさんにハマってんだって話だけど、理由なんて単純明快、モノがデカくて良かったからだ。
女の子はいい。柔らかくていいにおいでふんわり可愛らしい。けれどたまに男漁りをしたくなる時もあって、女の子でまかなえない要素だけを詰め込んだようなこの男は結構都合が良かった。
なれそめも大してドラマティックじゃない。ついでに言うならロマンティックでもない。自分が店で飲みすぎて夜道に酔いつぶれていたところ、親切心で介抱してくれたのが松本だ。その際に、どうせなら一回どう、と誘いかけたのがなれ初め。巻き込まれた彼はまあ不運だったろうなと思うが、その一回が思った以上に良かったもんで、舌先三寸いいように言いくるめて今ではほぼセフレである。
「その気になった?」
「ちょっといたたまれないけど」
「何を今更」
その前にシャワーを浴びたいだなんて女の子みたいなことを言われ、お預けを食らっていたぶん思いっきりやらせてもらうつもりだ。突っ込むのは彼の方なのに、俺は気にしないぜと言っても駄目ですと主張して曲げなかった。だから、ベッドに横になっている松本の股間に顔を近付けてもボディソープの匂いしかしない。仕事上がりそのままの体臭も嫌いじゃないんだけど。言ったらあからさまにドン引きされそうである。
吐息にぴくんと反応するそれは彼とはまた別の生き物のようだ。勝手にちんこにエドゲインくんという名前を前回ふざけてつけたりしたが、ちんこネームよりもそのネーミングに渋い顔をされてしまった。
「ハーイ、エドゲインくん元気だった?」
「ねえその話しかけるやつひょっとして今後毎回やるの」
「その時々の気分で」
頭上から大きな溜め息が聞こえてくる。彼が言うには、性器に連続殺人鬼の名前つけられても、だそうだ。別にいいじゃん、同姓同名の人間なんて掃いて捨てるほど居るだろ佐藤太郎とか。
これから自分を気持ちよくしてくれるエドゲインくんに元気になってもらうべく、先端を唇で軽く吸う。裏筋に舌を這わせ、袋を咥えて甘噛みする。
彼と酒を飲むこともある。むしろ松本的には、酒を飲む方がこの行為よりも楽しいようだ。歳かな。三十路ってそんなに体力落ちるもんなんだろうか。自分もそろそろアラサーだけど。
うっかり根元まで齧りつこうとすると、日本人とは思えないサイズのそれは喉の奥を塞いでくるのだ。意図せずやってしまうと嘔吐くので、ちょっぴり卑怯だが視覚に訴えて誘いかけることにする。
記憶に色鮮やかな、兄の顔を思い返す。表情を、発声を、仕草を完璧に寄せてしまえば、そこに落ちない男はいなかった。
「うっわ」
「お、かたくなってきた」
「ていうかちょっと、しながら喋らないでよ」
「はーい、フェラに集中しまーす」
もう会うことはないだろう兄のことを、自分は今でも世界一色っぽい人だったとわりと本気で思っている。自分の猿真似でここまで効果があるんだから、きっと本人がやったら傾国のなんとやらだ。間違いなく。
「誠一くん、待って、イきそ」
「おっと」
八歳年上の松本は、一度絶頂を迎えると復活が自分よりも遅い。やりすぎたかなと思いつつ、エドゲインくんを口内から解放した。貴重な一発を口だけで終わらせるのは勿体無い。
彼の身体に跨った。備品のローションを遠慮なく使わせていただいて、自分で後ろを解し始める。手持ち無沙汰にこちらの胸元へ腕を伸ばしてきた松本が、ごつごつした指先で身体をなぞり、指の腹で乳首をつまんで、その都度もどかしい僅かな快楽で腰が揺れる。
「やったげる」
「ははは、やっさしー」
お言葉に甘えて彼の胸へ身体を預ける。浮かせた尻に彼の長い指がやってきて、縁をローションで慣らされる。丁寧に後孔を開かれれば、あとはもうそこは性器でしかない。
内部を擦る指が二本、三本まで増える頃には、早く突っ込まれたくて仕方なくなっていた。
「な、もう、していい?」
「ん、ゴムつけるから待って」
「ええ、たまにはいいじゃん、俺HIVネガだぜ」
「駄目ったら駄目」
「へーいへい」
包装を破って、潤滑剤でぬめるゴムを彼が左手でくるくると引き伸ばしていく。体感ではもうゴムつけるのに何分かけてんだよと言いたくなるほど長い時間だったけれど、ベッドサイドにはめ込まれたデジタル時計は十数秒しか経過していないことを証明していたりするのでこれも口にしなくて正解だ。がっつきすぎ、とこれ以上思われるのもどうかと思う。薄暗い部屋の中で、時計の青白い光だけがやけに存在を主張しているからつい目に留まってしまう。
「おまたせー」
「待った」
ゴムで窮屈そうにしているエドゲインくんを掴む。さらにローションをどぼどぼ使ったところ、滑りのよくなりすぎた亀頭が尻の間でぬるぬると的を外しまくった。彼に半身の体重を預けて両手を使い、どうにか先端を中に押し込む。先の太い部分が入りきったのを確認して、そのまま腰を一気に落とした。
最奥を貫く衝撃に身を捩る。
「誠一くん、痛く、なかった?」
「んん、さいっこう」
「無茶は駄目だよ」
あれもだめ、これもだめ、ってあんた俺の母ちゃんか。まあ親とは普通こういうことはしないよなあ、なんてマイノリティの端からマイノリティに思いを馳せる。すぐにそんなものどうでもよくなった。どうせ親のことなんて、見た目以外ろくすっぽ覚えちゃいない。
真下から突き上げられて声を洩らすと、松本のエドゲインくんが質量を増してアナルをみちみち広げていく。きつい体勢でキスを強請る。唇に触れたのに、襲ってくる快楽ですぐに仰け反ってしまった。晒した喉元に彼が軽く歯を立ててくる。
急所を晒しても、そこに予告無しに触れられても、ただ気持ち良いとしか思わない。それはつまり身体の相性がかなり良いってことだ。女の子を愛でるのは大好きだが、それはそれとしてここまでハマる相手に出会えたのはラッキーだったと思う。ここしばらくの自分は難関大学新入生にありがちな燃え尽き症候群というやつで飲んだくれ生活まっしぐらだった。松本に巡り会ったら今度はセックス狂いみたいな状態になってしまったので、執着していたものを急になくしてしまうと依存先を求めたくなる心理なんだろうなと勝手に結論付けて思考を放棄した。
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