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第13話

 テーラードジャケットにストール、スキニーとほぼ丸々一式を購入し、店内で着替えさせることに成功した。普段着はユニクロどころかしまむらだという松本に値段は見せてはいけない。 「さすがに僕の服は自分で出すよ。いくらだったの?」 「たいした金額じゃねえよ。気になるなら今度のホテル代まっさんが全部出して」 「うっ……えっと、飲み代三回分とかじゃだめ?」 「やだ」  先日の「別れるのが惜しい」発言はなんだったのかといわんばかりの腰の引けようである。まあ、今現在彼に気になっている女性がいるのなら、次回があるかどうかも怪しいところだが。  近いうちに、今日のコーデでデートすることとかあんのかな。例の山岸さんと。 「まっさん、黒ブルゾンとか持ってる?」 「それならあるよ。でも、ださくならない?」 「黒なら平気平気。寒色系かブラウン系のトレーナーとアンクル丈のスラックスで組んだらいいぜ」 「あんくる……?」 「えーと、丈がくるぶしくらいまでの、ちょい短めのズボンのことな」 「サイズが合わなくなったジーンズなら……」 「そういう再利用は初心者はやめとけ。店員さん呼んでアンクル丈のスラックスくださいって言えばいいから」  一段下、エスカレーターで上りながらふんふんと彼が頷いて、スマホのメモアプリにアドバイスを書き込んでいく。やっぱ素材はいい、と思う。髪だって、男子トイレに引きずり込んで手持ちのワックスで立ててやれば見違えるくらい若返ったのだ。 「でも、ありがとう。少なくともこれ着ていけば保護者会や授業参観は恥ずかしくないよね」 「まあ春物夏物も揃えた方がいいだろうけどな」 「そ、そうだった……」  今度もし彼の自宅へお呼ばれする機会があったら、手持ちの服で着回せるセットをいくつか考案してやることにしよう。プリンセスはもちろんのこと、イメチェンは意中の相手にも効果があろう。  機会があったら、だけど。 「誠一くんはいつもびしっとしてるよねえ」 「女の子にウケる服選んでる」 「てらいなくその発言できるのいっそかっこいいよ」  連れをきっちり着飾らせて、上階で向かうのがフィギュアショップなあたりデートコースがだいぶミスマッチだよなあと思う。女の子とのデートならまずこんな周り方はしない。そのへんの気軽さも、松本といるのが楽しい理由である。  ガノタと特オタがメイン客層であることが丸わかりのフィギュアショップで、ショップ内をざっと見て回る。ショッピングモール内の店ではやはり品揃えが心許なく、目当ての神星戦隊アルカナファイブは変身アイテムかパズルくらいしか置いていなかった。  展示された天青ガッタイオーを物珍しそうに眺めていた松本に、やっぱなかった、と声をかける。 「それ、二万四千円」  ついでに今見ていた品の定価を付け加えてやると、彼は大仰に肩を震わせた。 「ひえっ……サブカルチャーにはお金がかかるっちゃー……」 「だろ。友達がこういうのすっげえ持っててさ、学生なのによく金続くなって思っちまう」 「学生なの」 「うん」 「……犯罪じゃない?」 「援交じゃねーよ」  厳密にはそうなりかけたこともまあなくはなかったけど。なくはなかったけどちゃんと踏みとどまったんだからセーフだセーフ。 「ひょっとして、この間会いに行ったのってその子?」 「そうそう。欲しい雑誌一緒に注文しといてくれるって言うから頼んでたんだよな。で、取りに行った」  こちらの表情を伺い見るような彼の目はこれまでにあまり見かけなかったもので、ふと彼の真意を探りたくなってしまう。 「なんだ……僕はてっきり」 「てっきり?」 「んーん、なんでもない……はあああ、僕ももうちょっと若かったらなあ……」 「まだまだだろ。服もまともなのコーディネートしたらちゃんとかっこいいぜ」  なんのことだか知らないが、そんな悲観する必要もないだろうと思う。今隣で落ち込んでいる松本は、普通にイケメンの部類に入る。 「コーディネートはこーでねーと……」 「出ると思ったよそのダジャレ」  いくらおやじギャグに疎いと言っても、有名どころは一通り分かる。笑ったつもりが失笑に聞こえたらしく、松本は小さく唇をとがらせた。おっさん何歳だと思ってんだ。  ああもう。くそう可愛いなと思ってしまった自分が嫌だ。

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