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第14話

 映画一回目、特典は宗太に聞いていた入手済みのものとは奇跡的にひとつも被らなかった。これでいったんはコンプ、あとは予備のために二つ欲しいと言っていた彼のお目当ての戦隊――アルカナファイブのレッド役、七星元気が素面で写っているミニ下敷きをもう一枚引き当てれば任務完了だ。その狙った一枚っていうのが意外と物欲センサーに引っかかってなかなか出てこないものなので、松本には目当ての種類がなんなのかは伝えていない。彼には物欲センサー避けになってもらおうと思う。  どちらかといえば勧善懲悪ハッピーエンドになりがちな戦隊よりシビアな展開になりがちな単車派の自分はというと、今回の歴代戦隊だらけの映画はさほど期待してはいなかった。していなかったのだけれど、隣で松本が小声で「あっ、あのレッド知ってる」とか、「わあ、あの武器昔持ってた」とかぼそぼそ呟くものだから、そちらが面白くて笑ってしまった。  彼としても、劇場内ががらがらでほとんど誰もいなかったからこその小声実況だったのだろうが、おかげで彼がどの時代の戦隊を見ていたのかがなんとなく分かった。残念ながら自分は歴代戦隊すべてを完走済みなわけではないので――宗太は完走済みらしい――、解散したらアマプラで視聴してみようと思う。  そもそもが、車かバスでの来場がほぼ必須になってしまうような立地のショッピングモールだ。ふつうは脇の小さな映画館より、もう少し大きなところに足を運ぶのだろう。二回目の上映では、さらに人気がなくなった。 「他に見てるの、一番前の席の野郎だけだな」 「そうだねえ」 「あいつさっきもいたよな」 「ほんと? 僕らと目的一緒なのかな」  特典ハズレだったら交換すると効率良いかもね、あとで話しかけてみようか。上映前の告知祭りの間、話を振ってみるとそんなのほほんとした返しがやってきた。 「じゃなくて、ちょっと不埒なことしてもバレなくね?」 「……あのねえ」  こちらの意図を端的に解説してやると、松本は一気に呆れ声になる。 「なんだよ、最近つれねえな。他に気になる子でもできた?」  隣の席にある彼の肩へ、寄りかかってことんと頭を預ける。この話題が本日のメインディッシュだとは彼も気付くまい。 「……好きな子は、いるよ」  耳元に降ってきた言葉ははぐらかすでもなく照れて否定するでもなく至極まともな肯定で、つい二の句が継げなくなりそうになった。 「マジ? そんな気してたんだよな。どんな子?」  自分は何をこんなに驚いているんだろう。意識して平静を装わなければならない自分が自分でわからなくなる。 「おてんばで、わがままで、ちょっと臆病な子だよ」 「おいおい、「それはね、あゆのことだよ」なんて言わねえだろうな」 「違うって、ちゃんと大人のひと」 「かわいい?」 「うん。……すごくかわいい」  彼の体から、心臓の鼓動が耳元まで伝わってくる。セックスするときよりも脈は穏やかで、でもその速さが彼のふつうなのかどうか、よく分からない。  体を重ねる、以外に、彼とふれあう機会なんてほとんどなかった。

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