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9:その手を握り返せる未来

世界が、壊れていく。 コアに取り込まれ世界そのものになってしまった『マサキ』にはそれを見ていることしかできない。 『魔王』の絶望は、世界の終焉だった。 彼は無力な己に失望し、無垢な少年に自己犠牲を強いた世界を憎んだ。 そして壊れ始めた世界に、人々もまた絶望した。 『管理者』と『マサキ』は、正しく『魔王』であり『災厄』であったのだ、と。 ――ああ、これは、いつもの夢の続きだ。 死んでしまって、それで終わりではなかった。 『マサキ』は何も知らなかったのだ。 失うことの絶望も。 喪わせることの悔恨も。 自分の死の先には幸福な未来があると、ただ信じて。 『真稀』も同じだったと今気付く。 のばされた手を、ずっと拒んで。 それが月瀬のためになるのだと、信じていた。 否、本当は今も思っている。 だって、生きていて欲しいから、幸せでいて欲しかったから。 その結末が、こんな―― 自己犠牲は尊いが、反面大切に想ってくれている人をないがしろにすることにもなりえるのだと。 もしかしたらこの夢はずっとこれを訴えていたのか。 自分は失うのだろうか。 ……こんなにも大切な人を。 嫌だ、と感じる気持ちは想像以上に強く、喪失の予感は未来を黒く塗りつぶした。 *** 夜の街のざわめきが、唐突に戻ってくる。 しつこい客引き、人待ち顔の女性、ご機嫌な酔っ払い、無関心に通り過ぎる人々。 気付けばローブの男は倒れていて、それを取り押さえているのは見知らぬ青年だった。 青年はチェスターコートを着込み、リムレスの眼鏡と後ろに流した髪、それから涼やかな目元が印象的で、銃のようなものを片手に持っている。 誰もそんな普通ではない二人に目を止めていないことが不思議だった。 咳き込む月瀬を縋るようにして支えながら、衝撃の大きさ故か、どこか他人事のように現状を俯瞰している自分がいた。 一部だけ時間の流れが違ってしまっているようなこの場にするすると近付いてくる車がある。 キュッと止まった赤いミニバンから颯爽と降り立ったのは鷹艶だ。 「よ、二人とも無事?って何でつっきーダメージ受けてんの?おい勇斗お前何やってた」 到着するなりの言葉を受けて、勇斗と呼ばれた眼鏡の青年が「はあ!?」と顔を歪ませた。 「何って一発は仕方ないじゃないですか!こっちは怪しいってだけじゃ発砲できないんだから!」 「ばっかお前、『俺に任せとけ』くらいの勢いでこっちに志願しといて弾を打ち落とすくらいの芸当なんでできねんだよ」 「アンタだったらできるんですかテイザー銃で!」 「そんくらい拳圧でなんとかなるだろ」 「人間業で言えよ!普通出来ませんから!」 「普通にできないことをすんのが俺らだろっつーの!もういいから、さっさとこれ回収して三千遥と合流しろ」 勇斗は「覚えてろよ」などとブツブツ言いながらも、指示された通り意識のないローブの男を後部座席に押し込むと、一瞥だにせずに自分も車に乗り込んでしまう。 運転席からサングラスの男が顔を出し、軽い調子で「拾いに来る?」と問いかけると鷹艶は「いい。もう捌ける」と首を振った。 車が動き出すタイミングで、月瀬が立ち上がる。 え、と思いながらも、真稀は促されるままに共に立ち上がった。 「っ………鷹艶、首尾は」 「おう、とりあえず日本支部の頭はおさえた。…まあ、もう少しよく調べないとわからないけど、たぶんしばらくは真稀も安全だと思う」 「…そうか…」 「で、何でそんなへたってたの?」 「……当たり所が、悪かっただけだ」 「うわカッコワル。つかそもそもこんなとこで司令塔自らドンパチって状況がさあ……。俺、真稀にちゃんと話しとけって言ったよな?ほんとに全部説明した?」 「……………………必要だと思われることは」 「キャッチボールが足りなかった自覚はあるわけだ」 じとりとした視線を向けられた月瀬は、格好悪いと言われたときよりも更に渋面になる。 何事もなく会話している二人の横で呆然としていた真稀は、ようやく何か変だと気付いた。 「あのっ……月瀬さん…、怪我、は?」 つん、と月瀬の袖を引き、思わず会話に割り込んでしまう。 「ん?ああ、この通り、防弾対策をしていたおかげで大丈夫だ。君は怪我はないか」 真稀を気遣いながら、月瀬は軽く胸元を叩く。 「防弾………」 そういえば、密着した時に固い感触ではあった。 よくよく見れば出血もない。 「対策っつっても覆われてない場所に当たる可能性とか普通にあったからな?まったく優斗の奴…」 「奴らは概ね心臓を狙ってくるから一発は撃たせろと言ったのは私だ。藍沢は忠実に任務をこなしたのだから少しは褒めてやれ」 「それで簡単に大丈夫って思うかあ?あいつはちょっと素直すぎるんだよ。俺には無駄に反抗的なんだからその反骨精神を仕事に活かせばいいのに」 「いらないだろう反骨精神は。お前こそ、……………」 鷹艶と月瀬の会話をどこか遠くに聞きながら、ようやく恐れていた結末になっていないというのがわかった。 ……では、本当に無事なのだ。 「………………っ」 実感できた瞬間、安堵でその場にへたりこんでしまった。 「真稀!?どうした、まさかどこか負傷したのか」 突然座り込んだ真稀を心配して覗き込む月瀬に応える余裕もない。 鼻の奥がツンとしたと思うと視界が曇って、地面にぽつ、ぽつ、とドット模様が生まれる。 くしゃりと歪んだ顔を両手で覆った。 「真稀………?」 「っ……、月瀬さん……、死んじゃうかと思った……っ……」 恐かった。 自分の死などよりも余程、大切な人を失うことが。 引き換えにできる命なんてない。 誇りある死なんかよりも、懸命な生の方が、どれだけ尊いことか。 真稀にはそれがようやく理解できた。 しゃくりあげる真稀の傍らの心配と困惑の気配がふっと緩む。 「…怖い思いをさせてしまってすまなかった。私にはまだやりたいこともあるからな。そう簡単に死んだりしないから安心してくれ」 優しい声だ。 そっと頭を撫でてくれる手が、あたたかい。 「共に、戻ってくれるか」 コクコクと何度も頷いて、差し出されたもう片方の手を握り返す。 今は、とにかく喪失の恐怖が真稀を素直にしていた。 「つっきー、お前はこの週末は仕事のことは一切考えなくていいから、真稀とよ~く話をしておくように」 頭痛を堪えるような表情で二人の様子を見ていた鷹艶に、そんな言葉と共に有無を言わさずタクシーに押し込まれ、月瀬のマンションまで戻ってきた。 リビングのソファに真稀を座らせると、まず月瀬はコートとジャケット、そして防弾チョッキを脱ぎ捨てる。 フローリングに置かれた際のゴト、という音の物々しさ。隣に腰かけた月瀬に思わず聞いていた。 「それ…いつも着てる…わけじゃないんですよね?」 「普段はあまり現場にはでないからな」 口端に苦笑を刻み、月瀬は意外なことを言い出した。 「君のことは上の方には報告していないから、あまり大々的に人員を割けなくてな。件の組織の場所が掴めたというので今日は鷹艶が襲撃をかけていて不在だったんだが、君が帰宅していない様子なのが気にかかって、一人借りて出てきたわけだ。弾道がわかれば庇うことは容易だと思っていたし」 何故自分が帰宅していないのかがわかったのも気になるが、真稀が目を見張ったのは『上には報告していない』という言葉だ。 「どうして…報告、してないんですか?」 「まあ、した方が手厚い保護を受けられるかもしれないが。『共生』と言っても、人間は管理できないものをなかなか受け入れられない生き物だ。届け出をすれば保護する名目で危険な存在でないかを監視されることになる」 国立自然対策研究所というのは微妙な立場で、そもそも政治家が、神導鷹艶という圧倒的な武力とカリスマ性を日本のものにしておきたいがためだけに作られた機構で、上は世界中に太いパイプを持つ鷹艶に頭が上がらないが、同時に自分達には見えない人ならざるものの肩を持ち、意のままにならないことを煙たがってもいる、と難しそうに月瀬は語った。 「討滅しなければならない案件の方が多いこともあって、監視対象や研究対象としてしか見ていない人間の方が多いんだ。…君は、人に仇為す存在ではないことはわかっていたし、不必要に窮屈な思いや、不愉快な思いをさせたくなかった」 完全に私情だな、と苦く吐き出した月瀬に、しかし真稀は鼓動が早くなるのを感じていた。 月瀬は仕事で自分を保護しにきたのではなかった…? 「俺が……恩人の子供だから……?」 期待をするな。そう言い聞かせても、『真稀だから』というこたえが欲しくて、問いかけてしまった。 背中を押したのは、彼が撃たれる前のやりとりだ。 それが伝わったのだろうか、月瀬はふっと表情を和らげる。 「…そうだったな。君とはまず先程中断した話をしなければいけなかった。何故、君がここから出ていかなくてはならないか、の先を」 「それは……、お伝えした通りの理由ですけど、でも……」 あの時月瀬は、なんと言った?下心につけ込んだとかなんとか…。 「…君には、てっきり気づかれているのかと思っていたのだが…」 「あの、…きちんと言っていただかないと期待してしまいそうなので、……月瀬さんは……、」 俺のことを、どう思っていますか? 震えた言葉の先は、抱きしめられたことで途切れた。 「まさか、そこを悩まれていたとは思わなかった。君は…その、好意を向けられることには慣れているだろうと思っていたし、私も我ながら気持ちを隠せていたとは言い難かったからな」 そんな駆け引きは全く思い浮かばなかった自分は、子供なのだろうか。 「だって…『それ以上の関係を求めない』って…」 「それは、君のためのルールだろう?君は、特定の供給源を作りたくないのはそれ以上の行為を求められたくないからだ、と言っていた」 確かに、自分の体質のことを説明した時にそんなことも言ったような気もする。 ………どうしよう。だって、それでは。 「真稀、君を愛している」 低くて落ち着いた、真稀のすきな音が、至近でそう囁いた。 聴覚からだけではない、触れ合った体から音が伝わって、きれいな水のように真稀に注がれる。 「君は、私にとって特別な人だ」 「でも…俺、迷惑ばっかりかけてるし、男で、子供で、何よりヒトじゃないし、…」 「それは、残念ながら私を思いとどまらせる理由にはならないな。君も同じ気持ちでいてくれるというなら、尚更」 ああ、そうだ。こういう人だ。 引っ込めかけた手を、いつも全力で引っ張る。 自分はあの夢の中の『マサキ』ほど強くはないから、差し出された手が好意だとわかっていて尚、ふり払うことはもうできそうもない。 きっと、この世界の未来がかかっていても。 「好きです……、俺も、月瀬さんが、大好きです…!」 想いを伝えようと自分からぎゅっと抱きついた。 「っ………………」 …と、苦痛を堪えるような呻きが微かに耳に届き、そろそろと体を離して見上げた月瀬が少し気まずげに視線を逸らしたので、まさか、と彼のインナーをたくし上げて背中を見た。 撃たれた箇所だろう。 本人は大丈夫だと言ってはいたが、赤黒く変色している。 「つ、月瀬さん、背中…」 「…基本的には貫通を防ぐためのもので、銃弾から百パーセント保護できる装備品というのはないからな。骨は折れていないから大丈夫だ」 ぶつけた程度の痣とは違う、相当酷い内出血だ。 狙われているのも気づかずふらふら出て行って、しかも狙撃された時も何もできなかった真稀は後悔でいっぱいになる。 「俺…ごめんなさい」 「いや、私の方こそこんな時に、…鷹艶に格好悪いと言われても仕方がないな」 「つ…月瀬さんはかっこいいです!」 つい力強く反論してしまうと、驚いた気配がする。 「…ありがとう。…それより君は、いつも突然大胆だな」 「え……。……あ…!いや、違っ……そ、そういうつもりじゃ……」 指摘されて、服を脱がしかけた挙句、彼に乗り上げ、抱きつくようにして背中を確認していたことに気づいた。 何故立ち上がって回り込まなかったのか自分。 慌てて離れようとしたが、両腕が回ってきてそれは叶わなかった。 「では、今度は私から君に触れても?」 「っ…お、お願いします…」 からかうような瞳に至近で覗き込まれて、観念する。 こんな時どういう風にしていればいいのかわからずぎゅっと目を瞑った。 吐息が近づいて、唇に柔らかいものが触れる。 キスだ。 ピリッと、電流が走ったように体が慄く。 本当の本当に今更なことなのかもしれないが、これから彼とそういうことをするんだと思ったら頭に血が上って、全身緊張してしまった。 物凄く強張ったのがわかったのだろう、月瀬が顔を離して気遣ってくれる。 「どうした?」 「いえ…あの、き、緊張して口から心臓が出そうなので…っ」 「そうか…実は私もだ」 「そ、そんな風には全然見えませんよ!?」 「年上ぶっているだけだ。…こういうことは久しぶりだからな。あまり期待をしないでもらえると助かる」 生真面目にそんな宣言をしてしまう彼が、らしすぎて、少し笑ったらほんの少しだけ肩の力が抜けた。 「続けても?」と優しく髪を梳かれ、頷く。 再び、唇が重なった。今度は、先ほどよりも少しだけ強く。 それから促すように唇を啄まれて、誘われるままそこを明け渡す。 「んっ………」 ちゅ、と濡れた音がして舌が絡まると、空腹だったことを思い出して物欲しげに吸い付いてしまった。 彼が笑った気配がして恥ずかしかったが、体の奥が切なく疼いて、ほしくてたまらなくなる。 「………っあのっ…月瀬さん…っもらっても、いいですか…」 唇を離し、見上げてねだると、月瀬は一瞬考えるような素振りを見せた後「続きは寝室でしよう」と真稀の腕をとった。 やや性急に寝室に連れ込まれ、ベッドに転がされてからもう一度くちづけられると、我慢ができなくなって、求めた。 空腹が満たされ落ち着くと、途端に襲ってくる羞恥。 「すみません…俺、」 「なぜ謝る?」 「えぇと、あ、わ、ちょ…っ」 さくさくと服を剥かれて驚きの声をあげるも、「私から君に触れてもいいんだったな?」と念を押されて抵抗を封じられる。 最後の一枚を剥ぎ取られたと思ったら、すぐに好きな人に触れたことで素直に反応してしまっている中心を握られ、あっと声が飛び出た。 物理的な刺激にも弱いが、何より月瀬に触れられてるのだと思うと過剰に反応してしまう。 からかうように先端を撫でられ、ゆるく扱かれただけでも息が上がった。 「『食事』の後、いつもこうなっていたのでは、大変ではなかったか?」 「あっ…こんな、の、月瀬さんだけ…、しか…………」 「私だけ…か。君は、男心をくすぐるのがうまいな」 「そんな…あ…や、あ………あっ…!」 焦らすことなく導かれ、欲望を解き放つ。 あまり男の矜持などという言葉とは縁のない真稀だが、流石に自分の他愛なさが恥ずかしい。 汚してしまった、と慌てそうになるも、先日笑われたことを思い出して開きかけた口を閉じた。 どうしたら、と一人で葛藤していたところ、横になるよう促されて反射的に従う。 「……………っ」 開かせた膝裏をぐっと持ち上げられ、息を呑んだ。 無防備にさらされた場所を濡れた指が探る。 そんなところを彼に、と思うと制止したい気持ちでいっぱいになるが、しかし先程月瀬は『好意を向けられ慣れているだろうと思っていた』と言っていたくらいだからむしろ慣れている風に堂々としていたほうが?などとまたぐるぐる考えていても、初めての体感に結局何を言うでもなく背中を預けているシーツに縋るくらいしかできない。 好きな人になら何をされてもいいと言う気持ちと何をされても動じないのがイコールではないことに今更気付かされた。 「…っつきせ、さ…っ」 「…もう少し力を抜けるか」 「う……っ」 ここで慣らしておかなければ自分だけでなく月瀬も辛いのだとわかっていたが、緊張で上手くできないことが余計に焦りを生む。 「ごめ…なさ…っ上手く、できな…っ」 強張り震える真稀の頭をそっと彼が撫でた。 「謝らなくていい。少しずつ、慣れてくれれば」 「ん…っはい…」 優しい言葉と手つきに甘えて、ほっとすると少し力が抜けた。 それを待っていたように指は奥へと進み、探るように動く。 宥めるように首筋を辿る唇。至近の体は熱くて、羞恥や緊張よりも愛しさや欲望が勝ってくれば、異物感を感じるだけの体内が変化をするまでにそう時間はかからなかった。 「あ……っつきせさ、…これ…、…っ」 「いいのか?」 「ん………っ、はい…きもちい…で、俺…っヘンじゃない、ですか…?」 「不思議な聞き方をするな。何か、不安なのか?」 「ヒトと違ったらどうしよ…って…、ちゃ、ちゃんと最後までできそう…です、か?」 「君は………」 彼は言葉を切って指を引き抜いた。 何だろう、と羞恥に閉じたままだった目を恐る恐る開くと、上から覗き込む月瀬と目が合ってどきりとする。 「何も心配することはない。君はとてもきれいで、私の目にはとても魅力的に映る。互いに望んだ行為なら、何かと較べる必要などないだろう」 「あ……」 頬に触れた彼の指が、そっと、愛おしむように体をたどった。 「…君を、私のものにしても?」 少し掠れた声に、熱い指に、瞳の奥に欲望の色を見つけて、腹の奥がうずいた。 「お願い、します…」 これがどんな欲望でも、もう何でもいい。 「俺も、月瀬さんが、欲しい…っ」 腰が抱えられ、足が宙に浮いた。 「っあ……!」 怯む間も無く、熱いものがぐっと押し入ってくる。 はいって、くる。 指よりもずっと太いそれは、しかし指の時よりもずっとスムーズに真稀の中に収まっていく。 「ひっ…ぁ、つきせさ……ダ、待っ…」 「…っやはり、辛いか」 「っ…つ…辛くないの、…あ…っヘン、ですか…?」 「……ん?」 「……ど…しよ、おれ…これ、きもちい…」 指よりも痛くないはずはなかろうと思う。 いや、確かに苦しくて、痛いような気もするのだが、好きとか欲しいとかの前に、完全にかすんでしまっている。 気持ちいい。…だが、やはり怖かった。 ヒトと違うかもしれないこと。それを、彼がどんな風に思うのかも。 月瀬は応えず、そのまま腰を進めた。 「あ………っ」 内部を太いもので擦られる強い刺激に、声を上げて中を締め付ける。 深く入り込んだ彼が息を詰めるのが上から聞こえた。 「つきせ、さ…っ」 「っ…それは、とても歓迎するべき事態なのでは?」 「あ……っで、も、初めてなのに、…こんな」 「言っただろう、君が心配するようなことは何もない。ただ感じてくれればいい、私を」 受け入れられている。 ずっと、自分は体質のことを隠して一人で生きていくんだと思っていたのに。 「…っ月瀬さん…っ」 幸せで、滲んだ視界のまま腕を伸ばせば、応えて体を折った彼と、唇が重なった。 舌と舌が触れあって、その刺激に頭が痺れる。 その舌を吸ったら、「好きだな」とでもいうように笑われて、小さく謝った。 謝る必要はないと、またキスをもらって、嬉しくて涙がこぼれた。 動かすぞ、と言い置いて、月瀬がゆっくりと腰を引いた。 「あ…っあ、…っあぁ…っ」 ずるずると彼のものが、中をこする。 痛みはなくて、繋がった場所から広がる快感に体が溶けてしまいそうだった。 「ん…あ、あ…あっ」 動きに合わせて飛び出る声を抑える術は何もない。 「は…っつきせさ…っあ…っ、おれ、もぅ……っ」 与えられる快楽にいつもの渇望が加わって何が何だか分からなくなる。 「ん…このまま、いけそう、か?」 応える彼の息も、荒い。 真稀は必死に頷いて、本能の求めるまま口を開いた。 「月瀬さんのも…っなか、…いっぱい、欲し…っ」 「く…!」 「あ……あっ……!」 数度激しく貫かれ、その瞬間は訪れた。 深いところで彼が跳ねて、欲しがったものが注がれる。 「あっ――?」 今まで感じたことのない熱が腹のあたりから全身に広がり、それが恐ろしいほどの絶頂感を促して、声を上げて真稀もまた白濁を撒き散らす。 容量を超えた快楽と、これまでにないほど満たされる未知の感覚が、惑乱する真稀の意識を白く引き抜いた。

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