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第7話 意外な一面
そこには革ジャンを格好良く着こなす睦月がいた。凜とした姿は昨日の悪戯っ子の表情をしていた姿とは別人のようだった。
「い、いらっしゃい」
挙動不審の晴がいる。目のやり場に困りサイフォンをいじり始めてしまった。
「どうした?」
「あ、いや、そうだコーヒー飲む?」
「あぁ」
その返事を受けて晴はコーヒーを入れ始めたが、カウンターに腰を下ろした睦月の視線が痛かった。
(何か話さなきゃ~。間が持たない)
「今日の仕事は?」
「終わったから連絡を入れた」
「っ!そっか、でもビックリしたよ連絡くれて」
「都合、悪かったか?」
「そ、そんなこと無いよ」
そんな会話を繰り返しているうちに、良い香りを立てたコーヒーが出来上がった。今日の中で一番の出来だった。
「どうぞ」
「ありがとう、旨いな。これは甘いものが欲しくなるな」
「えっ、じゃあ、食べる?」
「あるのか?」
「うん、今日の残り物で悪いけど、それで良いなら」
「それでいい、そのケーキを頼む」
晴はカウンターを離れ、冷蔵庫に入れてあるケーキを取りにいった。今日、残っていたのはベイクドチーズケーキとフルーツタルトだ。2つをそれぞれお皿に入れて睦月の前へと出した。
「どっちが良い?」
「どっちも」
「えっ!どっちもなの?」
「あぁ」
「ならどうぞ」
手を止めて晴を待っていた睦月はベイクドチーズケーキから先に手をつけ、それはほんの3口で平らげた。
「コーヒーのおかわり貰えるか?」
「もちろん」
その食べっぷりは晴を喜ばせた。製菓の専門学校に通った晴にとってはケーキも自慢の1つだった。
コーヒーを受け取り、ニコリと笑う睦月の顔は昨日見た表情に少し似ていた。晴はドキドキする鼓動が睦月まで聞こえてしまいそうで小さな深呼吸を繰り返していた。
ケーキ2つと、コーヒーを2杯を飲み終えた睦月は満足の吐息をこぼしていた。その姿は孤高の虎がまるで寛いでいるかのように晴の目には見えた。その満足してくれた姿を見られただけで晴には満面の笑みが浮かんでいた。
「意外だね。睦月も甘いものが好きなんだね」
「まぁな」
「じゃあさ、僕が作る新作ケーキの試食してくれない?」
「良いぞ」
思いつきの言葉に真剣な言葉で返してきた睦月に晴の方が驚いてしまう。クリスマスの新作の事は頭にあったが時期的にまだ早い、それ以外に新作ケーキ作りの機会をもらえた事になる。
「え、本当に?」
「俺は出来ない約束はしない」
そう言い切る睦月は、年下なのに晴にはない大人の色気を醸し出していた。強い眼差しで晴を見つめる睦月に、心臓はドキドキしっぱなしだった。
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