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第13話 居場所
疑問符ばかりで混乱する晴の頭は、睦月が言った言葉を考える事を拒否するように必死に昨夜のお酒を飲んだ時のことを考えていた。
「晴?」
訝しむような声で顔を覗き込んで来た睦月の言葉でようやく現実に引き戻された晴は、真っ直ぐにその瞳を見つめ返した。
「それ、本気?冗談でしょ?」
晴はやっとの思いでその言葉を喉の奥から引き出していた。身体はこわばり頬も固まった。
「俺は本気だ」
「睦月……」
強い眼差しがそこにはあった。冗談の欠片は微塵もなかった。
「会ってまだ1ヶ月しか経って無いのは分かっている。でも、お前の側ほど落ち着く場所を俺は知らない。俺が俺でいられるんだ」
真剣に思いを告げてくれる睦月の瞳に嘘は感じられなかった。晴の心にだんだんと睦月の言葉が満ちていく。それでも踏みとどまろうとする思いもあった。
(夢じゃないのか?また、辛い恋をするんじゃ無いのか?拒否した方が良いんじゃないのか?)
無意識に晴の瞳から一筋の涙が流れ落ちていた。
「好き……睦月が好き、僕の側にいて」
懸念を浮かべる頭とは裏腹に溢れた思いは素直だった。晴は言葉を告げて睦月に手を伸ばすと優しく抱きしめられた。
「ありがとう晴、俺に居場所をくれて」
晴がこぼした涙と、伸ばした手は睦月が大切に受け取ってくれた。そして優しい口づけが1つ晴の唇に落ちてくる。
抱き合う晴と睦月にカーテンの隙間から輝く光が差し込む。それは光に導かれた朝日が晴の恋を祝福しに来ているようだった。
朝日に祝福されて甘い雰囲気が部屋の中に満ちてこれからというタイミングで、ぐぅ~という大きな音が部屋に響いた。
「ぷ!」
「ご、ごめん!」
晴のお腹の音だった。大きく鳴り響いたその音に晴の顔は朱に染まった。いくら生理的な反応だとしてもあまりにもタイミングが悪い、悪すぎる。堪らず睦月は笑い出し、それからようやく笑いを収める頃には晴は小さくなって固まっていた。
「可愛いなお前は」
「え?」
「やっぱりお前の側は心地良いな」
「む(ぐぅ~)!」
またしてもタイミング良くお腹が鳴った。晴から睦月への思いはお腹が代わりに答えた。その音に今度は全身が朱に染まった。
「くっくく、こんな気の利いた返事は初めてだ。このまま押し倒したいところだけど、性欲よりまずは食欲が先だな」
笑顔の睦月に晴は申し訳無い気持ちになった。胃の中のモノを全て吐き出した身体は正直過ぎた。
「ごめんね」
「なんで謝る?」
「だって……」
晴には睦月のオスがさっきから固く昂っているのが分かっていた。
「俺たちの時間はこれからだ。そうだろ?」
「うん」
「じゃあ俺はトイレを借りる」
そう言ってベットを降りた睦月は、脇に落としていたバスタオルを拾うと腰に巻き付けてトイレに向かった。それを晴はベットの中で見送った。
(バカ、バカ、僕のお腹のバカ。もう~信じられない。このポンコツ)
ひとしきり自分を罵った晴は着替えの為にクローゼットの前に行き着替えを済ませた。お腹は空腹を訴えて頭痛もあったが、冷蔵庫から取り出した水を飲むことでごまかした。晴は頭の中でこれからの算段をする。いつまでも睦月を裸のままで居させる訳にはいかなかった。
(とりあえず睦月が羽織るモノががいるよね)
仕舞ってあった以前もらって晴には大きかったバスローブを取り出して睦月の分かるところに置くと、睦月の下着を買うために近くのコンビニまで走った。
晴が下着と直ぐに食べられるおにぎりやサンドイッチを買って部屋まで急いで戻るとバスローブ姿の睦月がお水を飲んでいた。
「二日酔いのところ悪いな」
「僕は大丈夫。睦月こそお腹空いたでしょ?」
買ってきた下着を睦月に渡して履いて貰っている間に晴は買ってきた食べ物をテーブルに並べた。
「こんな朝食でごめんね」
サンドイッチを食べながら空腹が満たされてはじめると晴は沈んでいった。恋人になって初めての食事がコンビニのおにぎりとサンドイッチということに悔しさが浮かんできた。
(普段外食かコンビニの睦月の為に朝食を作れば良かった……)
サンドイッチを口に運ぶのをとうとう止めてしまった晴の頭に睦月の大きな手が伸びて髪に指を絡めると後ろへと撫でつけた。
「気にするなよ、次を楽しみにしてる。それより俺はお前が買って来てくれる服の方が楽しみだ」
「楽しみって」
「だってそうだろ?俺の事だけを考えてお前が服を選らんでくれるんだから。ちゃんと2着分頼むぞ」
「2着分?」
「そうだ。ここでの俺の着替えだ」
「わ、分かった。」
睦月からミッションを言い渡されてしまった。晴は、睦月から言われた『ここに居場所が欲しい』と言った言葉が本気な事が伝わって心が暖かくなるのを感じていた。
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