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第15話 彼の服
お気に入りのセレクトショップに着くと晴は大きく深呼吸をした。このお店は隆二に紹介されて行きつけになったお店だった。その店主は初めて会った時から"この人は同類だと"すぐに分かった。今では好みを把握してもらっていて、細かく伝えなくても用意してもらえるお店だ。
「ご無沙汰ですね。今日はいかがいたしましょう?」
「あの~今日は……」
自分の物ではない他人のしかも彼氏の服を買うという行為が、思いの他恥ずかしさをもたらした。
「身長が190センチでこれくらいの肩幅で、そんな人の部屋でリラックス出来る洋服一式2着もらえませんか」
「おや、珍しいですね。俺が立候補したかったのにお相手を見つけたんですね?」
「な、な、なんで、草加くん、相手いるんじゃ」
「もちろん、いてますよ。でも、それはそれ、これはこれでしょ?」
肩まで伸びる緩くパーマをかけた髪を揺らして優雅にウインクする草加に晴の頬は引きつった。
「いやいや、それはダメでしょ~。草加くん、やっぱり今日は僕が選びたいんだけど良いかな?」
「もちろんですよ。うちではそのサイズはこの辺です」
案内をされた一角には睦月の似合いそうな服が溢れていた。晴の中で彼のイメージはモノトーンだ。何枚もの服を選んで2着分のセットを用意した。
(似合うと良いなー)
「これを着てもらって脱がせるのが楽しみですね」
「何を言ってるのっ……!」
「いやいや、男のロマンでしょ~」
「そんなこと考えてないから!」
「またまた~」
真っ赤になって晴が否定すると、意味深に笑う草加がいた。
お店を出るともうすぐ11月になろうとしているのに、日差しの暖かい日で、気分が良くなる。家までの道を歩く中、晴はとても満たされていた。腕に感じる重みも心地良かった。
「買ってきたよ、睦月」
「おかえり」
「この服着てみて!」
洋服は睦月によく似合っていた。こんなカッコイイ人が彼氏だなんて浮かれてしまう。
「晴、エッチでもするか?」
「な、何言ってんの」
姿見越しに映る睦月と目が合うと晴は真っ赤になった。頭には草加に言われた言葉が浮かんでいた。睦月の着ている服を脱がせるのを想像するだけで顔が熱くなった。
「あっでも、昼を食べてからな」
朝の出来事を揶揄されて、恥ずかしさのあまり晴は思わず睦月の背中を叩いていた。
「痛いなー、最初に会った時もそうだけど、意外と気が強いよな。晴は」
「そ、そうかな?」
「そうだ、いきなりお酒をぶっかけられたからな」
「あ、あれは……」
言葉を続けようとするとすっぽり睦月の胸の中に抱きしめられていた。口を尖らせ拗ねて見せた晴もその腕の温かさに気持ちも落ち着いた。
「ひとまず疲れただろ、休憩しよう」
「うん」
「俺がお茶を入れてやるよ」
「睦月が?嬉しい」
「じゃあちょっと待っててくれ」
ラグの上に座ってお茶を入れてくれている後ろ姿を見ていると、家事をしないという割には手際が良くて晴の出番はなさそうだった。することがない晴は、ただただ用意したスタイリッシュなスウェットパンツにモノトーンカラーのカーディガンを着る睦月に見とれてしまった。
「背中に穴が開きそうだな」
「ご、ごめん」
睦月はお茶を入れてキッチンからこちらに戻って来た。歩く姿も格好いい。お茶を一口含むと思いのほか喉が渇いていたようで、美味しく飲み終えた。
「そろそろお昼だね。ねぇ、睦月はお昼に何が食べたい?」
「そうだな、オムライスだな」
「分かった、ちょうど冷凍庫に冷ご飯あるし作るよ。今度は睦月が待っててね」
立ち上がろうとすると身体を引き寄せられた晴は、一度ギュッと強く抱き締めてられた。そうして睦月は晴をキッチンに送り出してくれた。
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