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第17話 生まれる不安

 いつの間にか落とされるタイミングに合わせて自分の良い所に当たるように晴は腰を動かすようになっていた。 「そうだ、もっと感じろ」 「あん……うぅん……あぁ、ぁぁ……あぁー、イク、イク、あぁ、イッちゃう」 「イケ、晴」  晴は頭の中が真っ白になった。薄れる意識の中で身体の奥が熱い迸りに満たされるのを感じたていた。  一端意識を飛ばした晴が気が付くと場所はベットに移され前から蕾を貫かれていた。晴は睦月の求めるまま、欲望に従って乱れに乱れ、完全に意識を飛ばす頃には部屋は夕闇に包まれていた。 晴は喉の渇きで目を覚ました。目の前には心配そうな睦月がいた。 「水を飲めるか?」 「のっ、ゴホ、ゴホ」 「ほら、飲め」  睦月の手を借りて身体を支えてもらいながら晴は水を飲み込んだ。睦月の堅い胸板は安心感をもたらした。喉の渇きが落ち着いた晴は睦月にペットボトルを返すと再び横になった。 「大丈夫か?」 「うん。大丈夫」  大丈夫という晴の言葉は掠れた声になっていた。 「大丈夫じゃなさそうだな」  晴の声に苦笑する睦月が頭を撫で、その心地良い感触に晴は1度瞳を閉じた。再び瞳を開けると睦月の方に怠い身体を向けた。   「睦月、台所に蜂蜜があるから持ってきてくれない?」 「分かった」  睦月は晴の言われた通りにキッチンに全裸のまま蜂蜜を取りにベットを離れた。それだけで晴の中に隙間風が吹き胸が苦しくなる。そして睦月が戻れば晴の心に火が灯る。 (睦月の存在がこんなにも僕の中で大きくなっていってる。昨日自分の思いに気がついたばかりなのに)  晴はこの思いに幸せと微かな不安を抱いていた。    喉やインフルエンザにも良いとされている、晴が常備している蜂蜜を舐め、しばらくすると掠れた声もましになっていた。 「どうだ?」 「あーあー、もう大丈夫」 「それでも、しばらくしゃべるのはなしだな」  ベットに横になるように促された晴は、睦月の手を引いて自分の横に来るように誘い、ベットに並んで横になった。  寝転ぶ睦月の胸に頬を寄せて心臓のトクトクと鳴る命の音を聞いていると満たされていく晴がいた。睦月の顔を見ると不意に確認したくて堪らなくなった。 「本当に僕で良いんだよね?」 「あれだけ濃厚な時間を過ごして疑うのか?それとも俺の言葉が足りなかったか?」 「十分受け取ったよ。大好き、睦月」    ピタリと寄り添って甘える晴を睦月はしっかりと抱き込んで布団の中に潜り込んだ。晴にとってそれはとても幸せな時間だった。  2人で夕食を食べて、帰って行く睦月を2階から見送った晴は、全身に残る睦月の感触を愛しく思いながらベットの中で丸まって身体を抱きしめて眠りについた  愛しあった翌日、目を覚して自分の身体に残る睦月が付けたキスマークを愛おしげに撫でた。それでもどこか現実の出来事だと思いつつ晴は、睦月との時間は夢だったのではという思いにかられていた。そして本当に自分は睦月に相応しいのだろうかと思い悩んでいた。    晴はここまで人から自分自身を求められたのは初めての事だった。実の父親でさえ、晴に十分な愛情を与えてはくれなかった。それはそうだろう。目の前にいる息子が愛する人の命を奪ったのだから。いくら愛する人が命を賭けて産んだ息子でも、喪失感を癒やす事は出来なかった。だから晴はどこかよそよそしい父親とそれを気遣う姉に育てられた。  そして晴が初めて自分から好きになった人も、自由を好みいつでも晴が求めてばかりの相手だった。  晴は幸せ過ぎて怖いという思いを生まれて初めて感じる程に愛され慣れていなかった。

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