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第20話 悪意

 ここ最近『淫売』と紙面1枚に大きく書かれた手紙と、晴と睦月が2人でいるところを撮られた写真が届くようになっていた。その写真の全てにおいて晴の顔が切り刻まれ、明らかに悪意が見え見えだった。 (これは睦月に家まで車で送ってもらうために、車に乗り込もうとしている写真。こっちは『ジョーベ』からの帰りに、睦月からマフラーのズレを直してもらっている写真。どっちも身に覚えがあるな~)  睦月が部屋に来ないその日、晴は写真をまじまじと見つめていた。 (これは睦月の事が好きな人からの僕へのメッセージだ)  突きつけられるそれらの悪意に複数の写真を持つ手が震えた。それでも晴の瞳には強い意志が浮かんでいた。 (でも僕は引かない、負けられない。睦月は誰にも渡さない)  強い決意を持って顔を上げた晴は、その写真を睦月の目の届かないクローゼットの奥の箱の中に仕舞った。いつかこれを使う日があるかもしれないと、捨てることはしなかった。そして睦月にこの事を話すつもりもなかった。  週末を睦月の部屋へ泊まりに行き、お互いの気持ちを交換し合った日の夜、久しぶりに2人で『ジョーベ』での楽しい時間を過ごした。  そしてほろ酔いの中、睦月と12月の冷たい風が吹く街の中を歩いていた。肩を寄せ合い時には瞳を合わせタクシー乗り場までの道のりを歩く中、前方から歩いて来る人に道を譲ろうと身体を端に寄せた。そんな晴に帽子を目深に被り顔を隠すかのように歩く人物がすれ違う瞬間に身体を吹き飛ばしてきた。晴の身体は凍ったアスファルトに倒れ込み、両手で顔を庇うように手から地面に倒れた晴のその両手に強い痛みが走った。 「っ!」 「晴!お前何をする!」  睦月の大きな声が辺りに響いた。道行く人は関わらないよう距離を取りながら通り過ぎて行った。  晴が見上げたそこには印象的なピアスを耳にした若い青年が立っていた。その瞳はしっかりと晴を見つめ、睨んでいる。その瞳を見た晴は、彼が手紙を送って来る人物だと理解した。 「晴、大丈夫か?」 「うん。大丈夫」  身体を起こしてアスファルトに座る晴のもとに睦月はしゃがみ込み、相手を睨みつけた瞬間その顔は、直ぐに驚きの顔に変化した。 「亮?なんでお前がここに?」 (あぁ、やっぱり睦月の知り合いだ)  その瞬間強い風が一陣吹き抜けて、亮と呼ばれた青年の帽子が吹き飛び、顔が露わになった。

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