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第21話 対決

 帽子が脱げたせいで乱れた髪と整った甘い顔。それに対してその瞳は鋭く、まるで晴を射貫くような勢いだった。 「亮、どういうつもりだ!」  晴が立ち上がるのに手を貸し、背中に隠すようにした睦月は亮と向き合った。晴は身を引き、睦月と亮のやり取りの見える位置に身体を少しずらした。 「睦月さんは誰の物にもならない。そうだろう?睦月さん」  後ろから仰ぎ見た睦月の眉間にキツく皺が寄るのが見えた。その顔は晴の知らない冷たい顔だった。晴を見る瞳とは違い、亮が睦月を見つめる瞳には切なさがあった。 「俺はここにいる晴と出会って変わった。お前と会った頃とは違う」 「嘘だ!そいつに惑わされているんだ」 「惑わす?それの何が悪い?俺をこんな風に変えてくれた事に感謝をしている」 「感謝?あの孤高の人だった睦月さんが?」 「孤高?そんな俺はまやかした」  晴はその言葉とともに、怪訝な表情で自分たちを見ては避けて通って行く視線を無視した睦月の腕に強く抱き締められていた。一瞬見えた睦月の顔には晴のよく知っている表情が浮かんでいた。 「まやかし?そんな……」 「睦月お願い僕を離して」 「晴?」 「僕は大丈夫だから、ね?」  晴は顔をあげ睦月としっかり視線を合わせた。その視線を受け取った睦月の腕が緩むのを感じると、身体の向きを亮の方に変え、一歩前に出て彼と向き合った。 「君だろ?僕に写真を送って来ていたのは」 「だったら?」  写真の話を出された亮はどこかバツの悪そうな顔をした。それを見た晴は、亮が悪い人間ではないことを感じ取っていた。どこにも向けることの出来ないやるせない思いを向ける事が出来た相手が晴だった、ただそれだけだ。 「その時の睦月の顔覚えてる?よく思い出してみてどんな睦月がいた?」  晴は優しく問いかける。 「どんな睦月さん?……幸せそうな……」  晴は自分で自分の言葉に呆然としている亮を見つめた。そして突如として身を翻した亮は夜の闇に消えていった。それを晴は静かに見守った。 「もう彼は大丈夫だよ。睦月の事分かってくれたね」  振り返り晴は睦月に笑顔を向けた。でもそこには辛そうな顔をした睦月がいた。 「すまない。俺のせいでこんな気分の悪い思いをさせて」 「謝らないで。もっと僕を巻き込んでよ。君の全てを受け止めるから」  そう言って晴は睦月に右手を差し伸べた。その手を睦月は強く握りしめた。 「いたっ!」 「っ!悪い」  その時になって、晴はやっと手の痛みを思い出していた。両手からはヒリヒリする痛みがしている。あらためて自分の手を見るとそこには擦過傷が出来ていた。傷を見た晴は痛みが余計に増したように感じ、少し目眩がした。 「痛いね。これだけ傷が多いと」  多数出来た両手の傷を睦月に見せながら、晴は苦笑するしかなかった。 「店に戻ろう」  真剣な厳しい顔をした睦月は慌てて晴の腕を取り歩き出した。 「うん」  晴の返事は歩きながらになった。  腕を引かれながら店までの道のりを歩く晴の顔は、苦痛に歪むどころか清々しささえ浮かんでいた。

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