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第22話 対決からの……。

 隆二に事の顛末を話した晴は、バックヤードを借りて、睦月の手によって傷の手当に両手を水道水で洗われていた。 「睦月~、痛いってば、痛いよ。冷たいし、もう、いいから!」 「駄目だ、この傷は水で綺麗に洗い流すのが一番なんだよ」 「でも!」    晴の声は段々と大きくなっていく。そして強気な声音とは裏腹に、晴の腰は傷の痛みと、流水の冷たさに、完全に腰が引けていた。  睦月を見ても水の冷たさを感じないかのように平然としている。その姿に余計に鬱憤が溜まっていった。 「ほら、もう少しだから我慢して」 「だって、痛いんだって」  口を尖らせてた晴だが、睦月に力では叶わない晴の言葉は尻つぼみになる。そして見上げた睦月の顔のあまりの真剣さにとうとう言葉は出なくなった。 「ほら終わった。細かい石も取れたと思う」 「晴、煩いぞ。男だろ、少しは我慢しろよ」  扉を開けてバックヤードに入って来た隆二にまで言われ、晴は恥ずかしさに俯いた。冷静になってよくよく睦月を見れば袖口まで水に濡らしその手も赤くなっていた。 「ごめん。服濡れたね。それに手も赤くなってる」 「構わない。それより手当続けるぞ。手縞さん、被覆材ってありますか?」 「被覆材?これでは駄目か?」  隆二は晴の目から見て絆創膏の様な物を救急箱から取り出して睦月に手渡した。 「あぁ、これでいいです。ありがとうございます」 「いや、治療が終わったら声かけてくれ」  隆二はそういうと仕事に戻っていった。晴は椅子に座らせられた。片膝をついて晴の前に屈み込んだ睦月はどこまでも真剣な凜々しい顔をしていた。その姿に手当を受けるだけのはずなのに晴の胸は高鳴った。 「手を出してくれるか?」 「うん」 「直ぐに済むからな」 「ありがとう」  手は未だにヒリヒリと痛みを訴えていた。 「明日、病院に行こう」 「病院?そんな大袈裟な。大丈夫だよ」  テキパキと手早く手当をしていく睦月の意外な発言に晴の頬には驚きが浮かんだ。 「大袈裟じゃない。小さな傷でも飲食店を経営する晴なら早く治す為には必要だ」 「あッ、お店……この手じゃ無理だね」  まじまじと手当を終えた手を見つめて呟いた。睦月に言われるまでお店のことは頭に全くなかった。カフェの経営者としては失格だ。 「明日、類くんと雫くんに連絡しないと。病院に行くならどれくらいで治るかも分かるよね?」 「あぁ、そう思う」 「分かった。病院に行くよ」 「良かった。なら、俺も一緒に行くから」   睦月はいたって真面目な顔でそう言った。今度こそ晴の顔は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。 「え?何言ってんの?大袈裟な。これ位1人で行けるよ」 「いや、俺の責任だから」 「でも、ほら、擦り傷だけだよ?ね?」 「ダメだ」    真面目な顔で言う睦月に空いた口が塞がらない。こんな顔をする時の彼が言い出したら聞かない事を付き合い出してから晴は学んでいた。それでも最後の抵抗をしてみる。 「仕事は?」 「病欠だ。病院に行くんだから間違ってないだろう?」  胸を張り、自信をもって言う睦月が可愛かった。晴は手の痛みも忘れてクスリと笑った。こんなに心配されて心が擽ったかった。 「分かったよ。よろしくね」 「あぁ」  そう言うと、優しく頭を撫でてくれた。傷は痛むし、先程の彼の事も聞きたい事はあったが、心が暖かくてもう良いかと晴は思った。こんなに思ってくれるそれだけで幸せだった。

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