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第25話 こんな日も
良い物が買えた晴は機嫌よく、昼食を食べる為にある一軒のイタリアンに立寄った。
開放的な空間に、光の良く入る広々としたしたお店で、内装もおしゃれで店主のこだわりが見える様なお店だった。
本日のお薦めのボンゴレビアンコを食べて食後のコーヒーを堪能していると、ふと視線は外に向く。
(さすがに平日だな~。スーツにコートを着ている人が多いな。もし、あのまま銀行で働いて居たら僕もこんな風に歩いて居たのかな?)
なんだか変な気分の晴だった。実際にあのまま銀行で働いていたら、この街の行き交う人の波の中にいてもおかしくなかったはずだ。思えば晴は会社勤めは向いていなかったのではないのかと考えていた。それほど今の生活が晴の生きる生活にマッチしていた。苦い思いもした経験も今となれば良い転機だった。
(それにしても睦月は、忙しくしてるのかなぁ~。ちゃんと食べたかな~。)
行き交う人を見ても思うのは睦月の事だった。購入した革財布の包みを見つめこんな風に人にプレゼントを選ぶのはいつ以来だろうとしみじみしていた。こんなにゆっくりと1人で過ごす時間が出来たことになんだか感謝したい晴だった。怪我でお店を休むアクシデントも考え方を変えれば嬉しい休日になった。
満ち足りた気分で睦月の部屋に帰宅した晴は、ソファーで少しうたた寝をしていた。久しぶりの人混みの喧噪に疲れたのかもしれない。
その眠りを呼び覚ますかの様に携帯に着信が入った。
「もしもし」
『隆二だ。怪我の方はどうだ?』
「ありがとう、全治1週間。その間お店も休みになったよ」
『ご愁傷様だな~。でも良いんじゃないか?こんな休息日があっても』
「うん、僕もそう思っている所。あ、そうだ、隆二なら珍しいワインとか手に入る?」
『そりゃ、酒屋とのつながりがあるからある程度なら手に入れやすいぞ』
「じゃあさ、バローロのビィンテージの良いのもの手に入らない?」
『バローロかぁ、なら、リゼルヴァだな”幻のワイン”って呼ばれてる。でも、安くはないぞ』
「分かってる。値段はいくらしても良いから。クリスマスに間に合う様に手に入れられないかな?」
『了解、クリスマスだな。探してやるよ』
「ありがとう、隆二」
携帯を握り絞め、相手には見えないのに晴は頭を下げた。
『いいさ、お前が泣きつく以外で頼ってくるのは珍しい事だからな。急ぎで探して連絡入れるよ』
「うん、待ってる。お願いね」
これで『ワインの王様』と呼ばれているバローロも手に入ったも同然だ。晴の思いは早くもクリスマスに向いていた。2人で初めて過ごすクリスマス。光輝にすっぽかされた晴にとって初めて恋人と過ごすクリスマスだった。胸躍る心地とはこういうことなのだなと晴は擽ったかった。
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