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第26話 冬の空の……
夕食は睦月のメールで外で待ち合わせることになった。外食で済ませて部屋で晴はソファーに座りBS放送の星空の番組を見ていた。
「綺麗だね冬の夜空~。ここら辺じゃここまでは見られないもんね」
画面を見入りながら晴はクッションを抱きしめていた。晴の横で小説を読んでいた睦月も画面を見始める。番組はオリオン座の説明をしていた。
「せっかくなら本物をこの目で見に行くか?週末にでも」
「本当に?」
身を乗り出して睦月に確認をすると晴の顔にはワクワクした面持ちになった。
「ただし寒がりな晴には厳しい所だぞ」
「それって寒いって事?」
「そう」
「そんなの完全防備で我慢するよ。週末ならもう料理しても大丈夫だよね。僕、お弁当を作るよ」
思いはすでに週末に飛び、頭の中ではその日のメニューをいろいろ考え始め、もうテレビどころではなくなった。
金曜日の夜、手の傷もほとんど癒えて来た晴は睦月が帰るのを今か今かと待っていた。
(早く帰らないかな~)
夕方6時には全ての用意は出来ていた。お弁当、防寒の為の2人分の毛布、カイロ、完璧だ。
その後7時に帰宅した睦月を急かし、用意していた荷物を持って車で出かけた。1時間ほど車を走らせて道の駅の駐車場で夕飯にする。
「豪華なお弁当だな」
卵焼きをつまみながら睦月は笑った。晴の気合いが溢れるお弁当だったからだ。
「ごめんね、仕事が終わって帰ってすぐに急かせてしまって」
「気にするなよ。こんなお弁当を食えるなら苦にならないさ」
そう言って白ネギの肉巻きを頬張る睦月を見つめた。その姿に安心した晴も食事を始め、美味しいお弁当はあっという間に2人のお腹におさまった。ただ、その間に空の雲行きが怪しくなってきた。
「曇ってきたな」
「本当だ……観れるかな。星」
「まあ、行ってみよう」
「うん」
「お前の名前に期待してる」
いつもの悪戯っ子の顔で睦月はウインクして見せた。この顔に晴は弱い。
「それは言わないで~」
「ははは」
夜空に睦月の笑い声が響いた。その笑い声で雲が飛んで行けば良いのにと晴は思った。
睦月お薦めの星空の観測スポットについた時に空は
────見事に晴れ渡っていた。
「ふふふ、晴れ過ぎだし~」
車から出た晴は寒さも忘れて笑い転げた。
夜空を覆っていた雲は何処かに消え去り、満月が夜空に輝いていた。月が放つ光が邪魔をして星はほとんど見えない。
「参ったな~。折角ここまで来たのに……晴、威力出し過ぎだぞ」
笑っている晴の横で睦月は首の後ろに手を当てて苦笑していた。
「笑いすぎだ、晴」
白い息を吐き出して、睦月は拗ねたように晴に優しく肩をぶつけてきた。
「ご、ごめん睦月。折角ここまで連れて来てくれたのに」
笑いを止めた晴は睦月に抱きついた。冷たい空気が睦月を包んでいて暖めてあげたくなった。背伸びをして1つ睦月の唇にキスをした。するときつく抱きしめられて深いキスが降ってきた。
「ありがとう。ここまで連れて来てくれて」
「締まらない結末だけどな」
「そんなことないよ、また見に来ようよ。その時までの楽しみが出来たよ」
睦月の背中を晴はあやすように撫でた。
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