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第29話 少しの不安と安寧

 手の怪我もすっかり治り、カフェ『ランザ』を再開させた晴は隆二からバローロが手に入った旨のメールをもらい、久しぶりに『ジョーベ』に1人で訪れた。 「ありがとう。隆二」  カウンターに腰掛けると1番にお礼を告げた。いつものチンザノドライのロックを入れてもらった晴は一口含んでゆっくり味わった。 「しっかりビンテージの良かった、2012年のリゼルヴァのバローロをを用意したぞ。ちゃんとクリスマスのラッピングもしてもらってる」  お金と引き換えに受け取ると木箱に入れられたワインだった。感じる重たさは心地良いモノだった。 「お前、そんな顔だったか?」 「なんだよ、失礼だな」 「いや、良い顔になったなぁと思ったんだよ。そんな色っぽい顔も出来るんだな」  頼んだお代わりを入れてくれた隆二に言われた言葉に、晴は鳩が豆鉄砲を受けた様な顔になった。言われた言葉を理解すると徐々に熱くなる頬と、周りから刺さる視線が気になり出した。 「見ないでよ。なんだか視線を周りから感じるんだけど?」 「そりゃ仕方ないだろ。それだけ色気振りまいているんだから」 「振りまいてないよ。嫌だな~」 「お前気が付いて無いのか?」 「何をだよ?」 「お前、綺麗になったよ。瀬川さんと付き合えるようになって本当に良かったな。店の中の事は気にするな、お前への手出しをしたらこの店への出入りは禁止するって言ってある」 「ありがとう隆二」 「そんなお前を見たら光輝は悔しがるかもな」  光輝の名前を聞いた晴はドキリとしていた。あんなに引きずっていた存在の事をすっかり忘れていたから。 (光輝の事を考えなくなって、夢も見なくなったのはいつからだろう?) 「こ、光輝と連絡を取り合ってるの?」 「あぁ、取り合うって言うかたまに返信宛てのない絵はがきが届く」 「そうなのか……」 「悪かった。良い思いしないよな、丁度昨日はがきが届いたもんだから。……気持ちが緩んでしまったみたいだ」 「隆二は悪くないよ。頭下げないで、教えてくれてありがとう。そして今まで黙っていてくれてありがとう。睦月と出会う前ならモヤモヤして自分じゃ居られなくなったと思う。それに、前に進ませてくれたのは隆二じゃないか、感謝しかないよ」 「そう言われると照れるな。それに本当に強くなったな晴」 「本当にありがとう隆二」  お礼を告げながらも隆二でも気が付けないほど心の中では揺れていた。  帰宅した晴はコートも脱がずにベットに腰を掛けてボーッとしていた。そこに睦月からメールが入った。 ー今、何をしている?俺はお前に会えなくて食事も美味しくない。 ーちゃんと食べないとダメだよ。身体の為に。 ーお前の食事じゃないと美味しくないんだよ。 ー我が儘だな~。明日は来られる? ー必ず行く。明日は甘いものが食べたい。  そのメールで自分の居場所が睦月の側だと認識することが出来た。睦月が何気なく送ってきたメールでもそれは愛しいラブレターだった。 (僕には睦月がいる。こんなにも愛おしい。側に居てくれて良かった)  乱れそうになった心は安寧を掴み、晴は携帯をお守りのように胸に握り絞めて安心して眠りについた。

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