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第31話 レシピ
内緒と言われたら晴の負けず嫌いがムクムクと顔を出す。
「もし、再現出来たら僕のお店で出しても良いですか?」
「あら、あなたもお店を?」
「はい」
「ケーキとコーヒーのお薦めのお店ですよこいつのお店は」
「まぁ、じゃあ、是非置いてやってくださいな」
「良いのですか?」
「ええ、もちろん。再現が出来たときは是非どうぞ」
「ありがとうございます」
晴は立ち上がり頭を下げた。周りからは視線を感じたが気にしている場合ではなかった。
「まあまあ、顔を上げてくださいな。そろそろ私は引退を考えて居ますからレシピが受け継がれて行くのは嬉しい限りなんですよ」
「辞めてしまわれるのですか?」
「ええ、引き際をそろそろ考えています。でも常連さんたちから止められていてね~、なかなか踏み出せないのよ」
「是非辞めないでください。僕また来ますから。ね、睦月」
「あぁ」
睦月を見るとしっかり頷いてくれた。
「まぁ、それなら頑張らないといけませんね。貴方がお見えになるのは久しぶりね。10月以来かしら?」
「えぇ、覚えていてくださったのですね」
「もちろんですよ。月に1度しか来られない方でも覚えております。最近来られないのは、この方のお店を気に入られたのでしょ?」
「はい」
「それはとても良い事、ではごゆっくりね」
優雅に次のお客様の対応に向かって行った。
「ありがとう。連れてきてくれて。それで、これからも連れて来てね」
「もちろんだ」
再び食事を再開させた晴はじっくり味わい味を覚える様にして食を進めた。ここでも夢中になりすぎて黙り込んで食べていたことに気が付いた晴は慌てて顔を上げ、睦月の方を見るとすでに食べ終わり晴の事を観察していた。
「すごい集中力だな」
「ごめん、どうしても自分でも作って見たくて」
「構わない、逆に楽しみにしている」
眩しい笑顔で微笑まれたら、俄然やる気が出た晴だった。
「そこまで熱心に食べてくださるなら、一品教えて差し上げましょうか?」
「良いんですか?」
「もちろん。睦月さんが良ければですが」
「睦月良いかな?」
「もちろんだよ。しっかり学んで俺にも食べさせてくれ」
突然の嬉しい申し出に睦月の許可を得た晴は、ママに招かれてカウンターの中に入った。
カウンターの中はその人物を表す様に使いやすく整えられていて、初めて入るキッチンでも戸惑うことなく調理が出来そうだった。
(見習わないといけないことばかりだ)
自分の考えに浸っているとママから1枚のレシピを手渡された。
「この厚焼き卵のサンドイッチなんてどう?」
「厚焼き卵ですか?」
「そう、したことなくて?」
「はい、卵サンドは茹でて潰したモノしか作った事がありません」
「なら、このレシピを差し上げるわ。ほら作ってみましょ?」
「はい」
「お、ママ可愛いお弟子さんかい?」
「ええ、そうなのよ。ね、えっと……」
「あ、三山晴です」
「そう、晴くんは私のお弟子さんなの」
にっこりと笑うふくよかなママと常連客に囲まれて初めてのメニューに挑戦をした。こっそりのぞき見た睦月は優しい見守るような温かい笑顔でお代わりのコーヒーを飲んでいた。
「どうして同じ味にならないのだろう」
「ふわふわジューシーだったなママさんの作るサンドイッチは」
「そうなんだよ、これも練習だね」
睦月の運転する車の中で晴はため息をついた。昼食のお客さんが増える頃までしっかりと学んだが、納得のいくサンドイッチを晴は作る事が出来なかった。お腹は試作品のサンドイッチでいっぱいだった。
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