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第32話 嬉し恥ずかし

「これからどうする?」 「そうだな、ワインを買いに行っても良いか?」 「もちろんだよ」  ワインと聞いてドキリとした晴だが、平静を装って微笑んでいた。    ワイン専門店に到着すると、睦月は好みのワインを見てくると言ってお店の奥へ進んで行った。  ふと目についたワインに合うチーズのコーナーに晴は吸い寄せられていった。睦月が好きなチーズを今夜の夕食時に並べるのも良いなと思い、バローロが赤ワインなのを考えてそれに合うカマンベールとお店お薦めのモン・ドールを手に取った。睦月の方に振り向くとボルドーワインを2本手に持ってこちらに近づいて来た。 「決めたの?」 「あぁ、晴もチーズ買うのか?」 「うん、美味しそうでしょ?」 「あぁ、ナイスチョイスだ」  掲げて見せたチーズに賛同を得られた晴は嬉しくなった。こんな風にお酒がお互いに飲めるからこそ出来る最高の一瞬だった。  晴は部屋に戻ると、もう一度厚焼きたまごを焼きたくなる思いを抑えて夕食の準備を始めた。  メニューはラタトゥイユ、チキンの丸焼き、サーモンのカルパッチョ、生ハムとレタスのサラダ、白身魚の白ワイン蒸し。そしてケーキはブッシュドノエル。  2人で食べるには多すぎる量のメニューがテーブルに並んだ。自分の気合いの入りすぎに晴は揃った料理たちを前に苦笑を漏らした。 「おおー豪勢で美味そうだ。ってなんでそんな顔をしてる?」 「えっ変な顔してた?」 「あぁ、なんだか苦笑いしてるぞ」 「そんなに人の顔色読まないでよ~」  恥ずかしくなった晴はキッチンに逃げた。その後を追うように睦月は側に寄ると後ろから晴を抱き寄せた。 「なんで、逃げる?」 「だって、自分の気合いの入り具合が恥ずかしいよ」 「俺は嬉しいけどな。こんなクリスマスは子どもの頃以来だ」 「っ!それが恥ずかしいだって」 「それだけ俺との時間が大切って事だろ?ありがとう以外何もないよ」 「睦月……」  その言葉に振り向いた晴は睦月にキスを自分から仕掛けた。 「うん、うぅん、う、う、う~ん、うん、うん」  晴は自分から仕掛けたとはいえ、どんどん深くなる睦月からのキスから逃れる為に背中を思いっきり何度も叩いた。キスをほどいた睦月は晴を見下ろし顔をしかめている。 「痛いぞ晴」 「これ以上はダメ!」 「まぁ、そうだなお楽しみは後に取っておこう」  晴の好きな顔、悪戯っ子の顔の睦月に赤面でその言葉の返事を晴はしていた。

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