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第34話 新年

 除夜の鐘が鳴るのを聞きながら、晴は睦月と初詣に来ていた。  同じ事を考えて初詣に来ている人波の中で晴は溺れそうになっていた。 「晴、こっちだ」 「ん、あ!ありがとう睦月」  腕を睦月に引かれてようやく晴はまともな空間を確保出来た。そのまま人ごみに紛れて恋人つなぎをして、密かに2人の時間を満喫しながら参拝の列に並んだ。 「睦月、今年もよろしくね」 「あぁ、こちらこそよろしく頼むな」  長身の睦月を見上げてニコリと恋人つなぎの手を少し揺らして新年の挨拶を晴は口にした。睦月もその手を強く握って視線を合わせて新年の言葉を口にしてくれた。  晴はその言葉により一層の笑顔になる。 「機嫌が良さそうだな?」 「もちろんだよ~。年末から今日にかけて一緒にいるのが睦月だなんて嬉しすぎるよ」  年末も新年も睦月と過ごせている晴の機嫌はいつもにもまして良かった。良い年齢をして今にも跳ねる勢いだった。  除夜の鐘も鳴り終わり吐く息は白く、身体は芯まで冷える程の寒さの中、それでも晴の心はポカポカと温かかった。  列は進み参拝の順番が近くなると、さすがにいつまでも手を握っているわけにもいかず、名残惜しげに睦月の手を晴は離す。  お賽銭を入れて2礼2拍手をして感謝と願いを伝えた。 「睦月に出逢わせてくれてありがとうございます。おかげで僕は幸せになりました。来年も睦月と過ごせますようにどうぞよろしくお願いします」  最後に1礼して後ろを向くと睦月はすでにお参りを終えて列を離れようとしていた。慌てて背中を追うと睦月が振り返ってくれた。 「長く願っていたな?」 「うん、しっかりと聞いてもらった」     笑顔の晴の頭を睦月はポンポンと軽く撫でてくれた。大きな手に頭を撫でられると安心感が生まれる。  そのまま列を離れて晴は睦月を連れて甘酒を配布してくれる場所まで移動した。 「ここの甘酒は美味しいよ~」 「そうか楽しみだな」  ほんのりした丁度良い甘みの甘酒を一口飲んだ晴はホワァと息を吐き出した。冷えた身体に染み渡る味だった。 「確かに美味いな」 「でしょ~?」  満足している睦月を見て晴も満たされた。  曇天の夜空を見上げても空に星は見えない。それでも吐き出す白い息の向こうに満点の星が見える気がした。

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