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第40話 明るいはじまり
その週は晴の意地で類の力を借りずに乗り切った。まるで初心に返った心地で新鮮だった。
1週間が経って雫がバイトに出てくる日、何故だか晴まで緊張していた。
睦月から全ては解決したと聞かされていても、雫の心境を考えるとのんびりではいられなかった。
「こんにちは、マスター、類さん。1週間も休んで申し訳ありませんでした」
「この度は申し訳ありませんでした」
雫は以前に増して艶やかになって、和樹を伴って出勤してきた。
「和樹さんは悪くないですから謝らないでください」
「いや。全ては俺の責任だから」
「和樹さん……」
「はい、はい、仲の良いのは分かったから痴話げんかはしないの。ね、雫くん」
「え、え、えっと、痴話げんかですか?」
「こらこら、類くん」
「だって晴ちゃん、知らなかったんだけど、雫くんに付き合ってる相手がいるって」
腰に手を当てて雫と和樹の前に立った類は2人に詰め寄った。「ねぇ、ねぇ、いつから付き合ってるの?」「なれそめは?」「お互いどこが好きなの?」……
放っておけば雫と和樹を無限に詰め寄りそうな類に困惑した和樹から視線で助けが求められた。
「類くん、お客様が今いないからってそんなデリケートな話、バイト中の今は禁止」
「えー、晴ちゃん驚かないって事は分かってたって事だよね?内緒はずるいよ~」
雫は赤くなっていた雫は晴に気が付かれていたことに気が付いた瞬間、真っ赤になった。耳まで赤くなった雫を愛おしそうに見つめる和樹の表情に、晴まで当てられてほんのり赤くなった。
「し、知っていたんですか?は、晴さん、いや、えっとマスター」
「うん、2人を見てたら自然とね」
晴の得意の笑顔に雫はアワアワとうろたえ、和樹は苦笑していた。
「晴ちゃん教えてくれたら良いのに~、ずるいよ」
「あの、えっと、気持ち悪いとか思いませんか?」
心配そうに顔を歪める雫に間髪入れずに類から言葉が飛んだ。
「思うわけないじゃん。ね、晴ちゃん。だって、俺も晴ちゃんも付き合ってる相手は男だもん」
「えっ!そうなんですか?」
「そうだよ、ね、晴ちゃん」
「そうだよ雫くん。だから分かっちゃたって事もあるんだ。心から好きな者同士が付き合う事に嫌悪なんてないよ」
「ありがとうございます」
晴の言葉に雫と和樹は頭を下げた。
そうしてまだまだ続きそうな類の追求の時間は2人の可愛い女性客の来店で終わりを迎えた。その2人を類が恨めしそうに見ていたのを晴は見逃さなかった。当分は類が賑やかになりそうだとクスリと笑みがこぼれた。寒い冬なのに店の中にはぽっと暖かな空気に包まれた気がした。
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