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第42話 見たくない
木枯らしが吹く中をマフラーを目深にかぶると、ふと、ガラス張りのカフェに睦月の姿が見えた。それでも、弾んだ心もすぐに萎んだ。
ロングのウェーブヘアが似合っている綺麗な女性と仲良さげに笑って向き合っているのが見えた。
この光景は光輝の時にもあった。
睦月はノンケだった光輝とは違うはず。
固まった心と体を無理矢理動かして走ってその場を後にした。
久しぶりの外出に外の景色を見る余裕もなかった。
あるのは心に吹き荒れる感情の嵐。気分転換に購入したチェスターコートも広げる気分にもならない。
ベッドの脇で放り出したショップバックの近くで三角座りをしていた。
どれくらいそうしていたのか晴の携帯に着信が入った。
画面を覗けば睦月だった。部屋の温度がまた下がった気がした。しばらく画面を見つめて力なく着信をオンにした。
「晴?忙しいのか?」
「ごめん。ちょっと寝てた」
「悪いな。起こして」
「じゃあ、今日は会うのは無理か?」
「えっ、今日?会いたい、会いたいよ」
「あぁ。俺もだ、会わせたい人がいるんだけど良いか?」
「えっ……」
晴の頭の中には先程の光景が蘇っていた。
「何かあるか?」
「っ、何でもないよ。ここに来るの?」
(嫌だ、嫌だ、嫌だ)
「いや、ライバル店になるから嫌かもしれないが、ランザから近くにある角のカフェに来てくれないか?」
「あそこに?今から?ここに睦月が来れば良いのに」
(嫌だ、嫌だ、嫌だ)
「頼むよ。たまには良いだろ?」
「分かった。用意したら行くね。じゃあ、あとで」
着信を切っても心が叫んでいる。
会わせたい人?あの人だろ?あの親密さの人に会うのか?無理だ。
這うようにして洗面所で鏡を見つめる。写る自分の姿は惨めな物だった。これで睦月の前に立てるのか?指で口角を持ち上げて笑い顔を作る。自分は客商売をする人間だ笑える。そう言い聞かせて部屋を後にした。
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