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第43話 聞きたくない

 マフラーも忘れてここまで来てしまった。  吐き出す息が白い。  意を決してカフェの扉を開ける。ランザとは違う白を基調にしたカフェ。そこに愛しい睦月と美人の女性が微笑んでいた。  逃げたい!  睦月が気が付き入り口近くに立ち尽くす晴に近づいて来た。 「ここまで呼び出して悪かったな。寒くなかったか?マフラーもしないで」 「うん。大丈夫。大丈夫だから」  なるべく不自然にならないように微笑む晴の返事に訝しがる睦月の顔があった。 「何かあったのか?」 「どうして?」 「お前のその顔色と、お前が大丈夫と何度も言う時は大丈夫じゃない時だ」  そこまで晴の事に睦月が敏感に感じるなんて思ってもいなかった。 「無理させたのか?」  覗き込んで来る睦月の後ろから女性が立ち上がり近づいてくるのが目の端に写った。晴はびくりと身体が跳ねさせて咄嗟にカフェから飛び出していた。 「晴!!」  カフェを出て何歩も行かないうちに睦月に腕を掴まれてしまった。 「離して!お願い」 「どうしたんだ。晴!落ち着け」 「また、見せつけるのか?僕を惨めにさせるのか?」 「晴!それは元彼の事か?」  晴の肩はビクリと揺れた。今何を言った?これは口に出すべき言葉じゃ無い。光輝とは違うのにやっぱり僕は光輝に縛られているのか? 「晴?」 「ごめん。睦月。ごめん。ごめん……」  晴はその場に座り込んでしまった。  混乱して頭を抱えて涙を流した。すると睦月は晴と視線を合わせるように座り込んだ。 「お前の疵を俺がえぐったのか?すまなかった。ただ、俺たち2人の為にアイツを紹介したかったんだ。悪かったな」 「違う、違う、睦月は悪くない。僕が悪いんだ」  晴は睦月の腕を掴むと縋り付いた。この手をふり払われるのが怖かった。その震える身体をあいている腕で1度睦月は抱きしめると晴に立つように促した。  その時になってやっと周りを見ることが出来るようになり、恥ずかしさに小さくなるしか出来なかった。  その晴を支えて側にある児童公園まで睦月は連れて来ると、身体を離して晴と向き合った。 「晴。聞いてくれないか?今日、呼び出したのはこれからの2人の事を伝えたかったんだ」 「これから……?別れるって事?」 「違う!後ろ向きになるのを止めるんだ晴!」 「そんなっ。だって……」 「いいか、俺たちはずっと一緒にいる。そうだろ?」 「……僕で良いの?」 「晴が良い」 「うん、うん、」  晴の顔は泣き笑いになっていた。   「だから、一緒に暮らそう俺たち」 「えっ!だってこれからの話をしようって言ってた。……それって、もしかして?」 「もちろん。その話だ」 「じゃあ、あの人は?」 「あぁ、あれは……「そろそろ、良いかしら~?」」   振り返ればガラス越しに見た時よりも美しい女性だった。

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