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第45話 引っ越し
1ヶ月後───
「晴、この段ボールはどこに置けば良いんだ」
「あ、それはあっち」
晴は新居に運び入れる荷物の指示を出していた。
「さって、片付けるぞ」
積み上げられている段ボールの1つに手を付け始めた。
あれから、春日小夜子の案内で見せてもらった部屋は悔しいくらい2人で過ごすのに最適な部屋だった。10階の角部屋。3LDKの広さ。ベッドルームが広く身長が190cmある睦月でもゆったり過ごせる。睦月が今まで暮らしていた部屋よりも2人で生活するのに適していた。
その上、詳しく聞けばこのマンション全てが睦月の持ち物で、ここ以外にも不動産物件を所有していて、収入を得ていた。そして睦月は和樹の父親の会社を辞めた。
辞めたあとはデイトレーダーとして生活していくことなり、新居にはそのための部屋も用意されていた。
ただ、晴は趣味でデイトレイドをしていたことも、父親から受け継いだ不動産経営をしていたことも知らなかった事で、出逢って間がない事を改めて実感したし、2人で生活することにも不安を新たにしたが、心が求める気持ちに逆らう事は出来ず、同居に踏み込むことにした。
「晴、ベッドが届いたから部屋に入れてもらっているからな」
「うん、分かった。でも間に合って良かったね」
「ホントにな」
今回の引っ越しにおいて睦月のこだわりでベッドを買い換える事になった。
「せっかく2人での生活が始まるんだから、寝具は新しくしたい」
「今使っているのがあるし余計な出費になるよ」
「出費よりも、2人で始める生活は寝具だけでも真新しい物で埋めたい」
「分かった。じゃあ、注文に行かないとね」
「一緒に行かないか?」
「えっ、僕も?」
「2人で使う物だから2人で選びたい」
その言葉に晴の頬は朱に染まった。
類くんと雫くんに我が儘を言って2人で寝具を見に行ったが、睦月の身長に合わせると特注するしかなく、手配の段階で引っ越しに間に合うか微妙だったのだ。
間に合わない場合、これも購入したセミダブルの晴の部屋に置くベッドで過ごすつもりだった。
「俺の荷物は不要な物は処分するけど、晴の部屋は必要な物を運び込んだらそのままにしてて良いからな」
「どうして?」
「店が忙しい時には上で休める方が良いだろう?」
「いいの?」
「もちろん。何日も独り寝は困るけどな」
その言葉に睦月はウインクをした。
こんなにウインクが似合う男はいないと思う。それが自分の男だなんて胸が熱くなるほど嬉しい。その反面、心配も浮かんで来る。
「家まで10分なんだから、ちゃんと帰るよ」
晴は睦月に近づくと背伸びをして頬にキスをした。すると腰抱かれて濃密なキスをされた。
「晴?なにか考え事か?」
睦月の言葉で現実に戻った。
今は引っ越し中だった。
「なんにもないよ~」
近づいて来た睦月は耳に言葉を吹き込んで離れて行った。
そこには顔を真っ赤にして鍋を抱える晴がいた。
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