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12−2

 網代の視線がオレの頭の上を、  いや背後か……見てる。  そう思う間に立ち上がった網代がスタスタとオレの横を通り過ぎる。──振り返るとすぐ後ろまで来ていた春真の身体を抱きとめている所だった。 「春真!?」 「日永さん大丈夫?」 「すみ──ません。  結構足に、きたみたい……」 「気にせず僕に掴まって。だけどそんな様子じゃ君が心配だな、良ければ帰りは送ろうか」 「そんな、だいじょぶれす」  春真ろれつ!かわいい場合じゃないだろ!  網代も──いくら酔っててもオレが居るのに春真が送ってもらうわけがない。そんなことも判らないあんたじゃない。  つまり今オレ、煽られたんだよね。  オレ焚き付けたって何もあんたの得にならないでしょ。それも自信から来る余裕って言いたいの。  ああもう腹立つ──勝手に格の違いを見せつけてる気になんないでよ。 「春真──おいで。帰るよ」 「日永さんはまだ辛いんじゃないかな。もう少し休ませてあげたら?」  それはいいけどさ。いつまでもあんたが春真を抱きかかえてるのが良くないんだよ。 「……どうする?春真」 「ん。かえる」 「じゃあこっち来なよ」 「ん。────?」  春真が来ない。  厳密には網代の手が腰に回されて動けない。  振り返って見上げる耳元に網代が何かを囁いて──春真は息を止めて目を丸くしている。  なんでオレはこんなの見せられてなきゃ、  いけないわけ? 「春真」  腕を掴んで強く引っ張った。  よろけながら春真の身体がオレの元に来る。 「日永さんが悪くないのは判ってるだろう。  乱暴は良くないよ」 「あんたが離さないからでしょ。  春真になに言ったんだよ」 「──秘密、と言いたいけれどね。君、日永さんを折檻してでも聞き出しそうだしいいよ、おしえてあげる。僕ならもっと優しく出来るし大事にしてあげるって言ったんだよ」  なにこの自信家。ヌケヌケとよく言うよね。  いかにも春真の欲しがりそうな言葉を吐いて聞かせたんだ。  マジで一番相手にしたくないタイプだな。  こんな時じゃなければ、かなり気の合う人種に違いない。だからこそ──自分を見てるみたいで寒気がする。 「言いましたよねオレ。  信用できない人間に任せられないって」 「観月さんの信用は必要ないんじゃないかな?  僕と日永さんで築いていくものだよね」  くそ、通用しない。  いっそ春真はオレのもんだって言い切ってやろうか。  そしたら網代は掌返してあっさり手を引く。  見苦しい事や無駄な労力を何より嫌うから。  それも判ってんだよ。 「網代さん……オレ、気分があんまり。  もうこれですみません──秋彦、帰ろ」  酔っぱらいに空気読まれちゃったよ。  でも網代もバツの悪い顔してる。  ざまあみろ。 「無理に飲ませたようで済まなかったね。後は僕がやっておくから気をつけてお帰り──二人とも今日は楽しかった、ありがとう。またいずれね」  最後まで油断のならないやつだな。  いずれなんてあったら堪んないよ。  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「春真はい水」 「ありがと。もうオレ──平気だから」  電車はダルかったからタクシーで春真の家まで戻ってきた。ソファーに座らせた春真もさっきよりは酒が抜けてるみたいだな。 「あいつさあ──」  うわ。口開いただけでビクってなるのやめてくんない。  地味に傷付いたよ。  別に怒ってないじゃんオレ。 「ごめん。秋彦に迷惑かけて」 「は?迷惑?」 「うん──網代さん、知り合ったのつい最近なんだ。話したのだって数回しかない。だけどなんか──親切すぎると思って、深く関わる気は無かった。今日も断るつもりで友だちと会うって話したら、ぜひにって言われて──秋彦が居てくれるなら良いかなって。でも都合よく利用したみたいになってごめんな」 「まあ、めっちゃ牽制はされたよね。  お前がトイレ行った時とかすごかった」 「──ホント悪かった。  秋彦はそんなんじゃないのにな」  オレさあ怒ってなかったよ。  怒ってなかったんだよマジで。  でも今──猛烈に腹が立ったよ。  だってムカつくよね。  なんなの。  迷惑とか利用とか。  挙げ句、そんなんじゃない?  じゃあオレはなんだよ。何のつもりで呼び出したんだよ。オレのこと恋人だって網代に紹介するくらいしてから、利用なんて抜かせよ。  遠慮からくる言葉なの?  程がありすぎてむしろ他人行儀だろ。  なにをお前は勝手に諦めてんだよ、こんなの告白どころの話じゃないじゃん。 「もし今日、網代と二人だったらおまえ食われてたよ。オレ呼んだのは間違ってない」 「ありがとな──でもオレ、あの人と二人でなんて会わねえから」 「はっ、なんでそんなこと言い切れる?あいつが簡単に引き下がると思うの。どうせ連絡先も知られてるんでしょ」 「それは──」 「網代はさ、春真の喜ぶ事くらい、いくらでも簡単に言えるしやれるよ。居るんだよそういう奴。ちゃんと拒めるの?オレの目の前で抱えられて硬直してたくせに。分かってんのかよ、あいつはお前とヤりたいんだよ」 「そんな、こと」 「ないわけないだろ」  網代から見たらお前なんておやつだよ。おやつ。ちょっと押したら落とせそうだもんな。実際、強引にされるの超弱いじゃん。 「ねえ春真、オレが言ったこと覚えてる?不特定多数を相手する奴とヤりたくないって、あと恋人もずっと作んないでって言ったよね。だからおまえ抱いて良いのはオレだけでしょ。でもさ──お前は本当に自分の身、守れんの」  網代を追い払う事自体は簡単だよ。後ろから睨み利かせる存在が居るだけでいいんだよ。はっきり相手がいるって分かれば興味無くすのは目に見えてる。本気じゃないもんあいつ。  もちろんお前一人じゃ出来ないけど。 「また飲みに誘われたらオレを呼ぶのは構わないよ。何度でも行ってあげる。けど完全に諦めさせなきゃ同じなんじゃないの。必ずオレが間に合うとは限らないし、今のままじゃ守ってやるって言い切れないよ。だってオレは『そんなんじゃない』からさ。網代も言ってたよね、オレの信用は必要ないって。要は部外者ってことだよ。春真も聞いてただろ」  ……俺も焦ってんのかな。  でもかなりハードル下がったでしょ。  先回りしてOKしてるのと変わらないんだよ。流石にわかるよね。  オレにどうして欲しいか、言ってみなよ。

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