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これはちょっと──いただけない。
前回の比じゃないんだよね。
成り行き次第では、オレは自分をどこまで抑えられるか、本当に分からない。
今日が納期なのに終業間際に差し替えの依頼が飛び込んできたって言ったよね。
そこそこ大きい企業とはいえ、オレ自身はヒラで末端のしがないウェブデザイナーだよ。クライアントの無茶振りに抗うすべなんて無いの分かるよね。
それを何とか終電までに仕上げて、お前が時間つぶしてるってバーまで迎えに行ったら──どうしてココに網代 が居んの。
バーに居るって聞いた時点で「???」とはなってたよ。いつもだったら「晩飯作って待ってるよ」じゃん。
そのやり取りの時間も惜しかったから仕事終わらせて急いで来てみたら、待ってたのはスツールに座るお前の腰に手を回してドヤ顔の網代?
──お前、オレを舐めてんの。
「まあまあ観月 さん、そんなに殺気立たないで。忙しい君の代わりに少し春真くんをエスコートしていただけだから」
──春真くん?この間まで日永 さんだったよな。なに勝手に親密度上げてんだよ。
網代の誘いを断らない、お前は──なんなの。
「網代さん、下心丸出しで春真にちょっかい出さないでもらえますか」
「ん?なにか不都合でもあるかい?
君は春真くんの恋人じゃないだろう?」
「不都合じゃなくて不愉快ですからね」
「──ふふ、噛み付くね。あまり喋ると要らぬ効果を生み出しそうだ。ここは黙して退散するよ──またね、春真くん」
ほんと、ムカつく奴。
さっさと居なくなったのはいいけど、
またってなんだよ。ねえよそんなの。
「……お疲れ秋彦。なんか飲む?」
「いらない。帰るよ」
なんでお前は平然としてんの。
今日は酔ってないだけマシだけど──そこまで時間がなかっただけか……まあいいよ。
言い訳は家でゆっくり聞かせてもらう。
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